エターナルを先に発見したのは、キラ達ではなくザフトの方だった。
「……本当にあの方は……」
 その中に、どこか見覚えがあるフォルムの機体を見つけて、ラクスは盛大に顔をしかめた。
「バカが出てきたな、本当に」
 小さなため息とともにバルトフェルドがこう呟く。そして、そのままシートから腰を浮かせた。
「バルトフェルド隊長?」
「時間を稼ぐ。ヒルダ達にも出撃するように伝えてくれ」
 どうせ見つかっているんだ。救援信号も盛大に発信しろ! と彼はエレベーターに向かう間にも矢継ぎ早に指示を出していく。
 そんな彼を見送るしかない。
 自分は守られているばかりではないか。
 そう考えて、ラクスは顔をしかめる。
 だが、それをすぐに打ち消した。
 自分が座っているのは他のクルー達よりも一段高い。艦長席と呼ばれる場所だ。
 たとえ、実際に指揮は執らないとはいえ、自分がエターナルの艦長だと言うことを否定する者はいないだろう。
 そんな自分が、不安をあらわにするわけにはいかない。
「……エターナルに私が乗っていることを隠す必要はありません」
 それで思いとどまってくれる者が一人でもいれば、逃げ延びられる可能性が大きくなるのだ。
 それに、とラクスは心の中で呟く。
 アスランは自分を殺すことはないだろう。その確信がある。
 自分を殺しては、彼が手に入れたいと――一方的にとはいえ――思っている《キラ》が絶対に手に入らなくなるのだ。
 それよりは、自分を人質にして彼を呼び出す方が有効だろう。
「もっとも、わたくしは人質になどなるつもりはありませんわ」
 そして、自分を守ってくれる者達もそう考えているだろう。
「何としても、彼等の手から逃げ延びます!」
 ラクスは決意をこめてこう宣言をした。

 エターナルから発信されている救援信号は、当然、アークエンジェルでも受信できていた。
「すぐに、助けに行かなきゃ……」
 その報告を耳にした瞬間、キラは即座にきびすを返そうとする。
「待て!」
 そんな彼の肩を、アレックスが掴んだ。
「俺が行く。お前は、ここで待機していろ」
 そして、彼はこう言ってくる。
「どうして?」
「お前が指揮官だから、だ」
 それに、ラクス達の救援も大切だが、他にもしなければいけないことがあるだろう? と彼はさらに続けた。
「俺たちは何のために宇宙にあがってきたんだ?」
 ジブリールの凶行を止めるためだろう? とアレックスはさらに言葉を重ねる。
「ラクスのことは、俺でも十分出来る。だが、あいつの居場所を探すことはお前でなければ難しい」
 適材適所、と言う者があることはわかっているな? と言う彼にキラは取りあえず頷いてみせた。
「でも……」
「大丈夫だ。ちゃんとみんな無事に連れて帰ってくる」
 俺を信じろ、とアレックスは笑う。
「……アレックス……」
 確かに、彼に行ってもらえば安心だろう。
 それはわかっていても、何か釈然としない。いや、不安を殺せないといった方が正しいのか。
「すぐに戻ってくる」
 微笑みと共にアレックスはこう囁いてきた。
「ラクスも一緒だから、うるさくなるかもな」
 さらに付け加えられた言葉に、キラは首をかしげる。
「カガリならともかく、ラクスならそううるさくならないと思うけど?」
 少なくとも、今の状況では……とそうも付け加えた。
「そうだな」
 確かに、カガリは騒がしい。そう言って、彼はキラの肩を支えにしてそのまま移動を開始する。
「アレックス!」
 まさかそんな意図で口にした言葉だったのか。そう思ってキラは慌てて彼に手を伸ばした。しかし、その時にはもう、アレックスはキラの手の届かない位置まで移動していた。
「万が一のことを考えれば、アークエンジェルを空に出来ないだろう? ザフトだけではなく、地球軍だってどこからわいてくるかわからないんだ」
 だから、キラは待機していろ。その理屈もわかる。
 それでも、何かが引っかかるのだ。
「アレックス……僕も……」
 やはり行く、と続けようとする。しかし、そこにはもう、彼の姿がない。
「……大丈夫よ、キラ君」
 いったいいつの間に近くに来ていたのだろうか。言葉とともにマリューがそっとキラの肩に手を置いてくる。
「マリューさん……」
「ラクスさん達のことはアレックス君に任せて、私たちはあれで次の被害が出ないようにしましょう?」
 ね? と言われてキラは唇を噛む。しかし、こういう時の彼女の言葉は間違っていない。だから、小さく頷いてみせた。