翌日、キラ達は宇宙へと向かった。
「無事で、帰ってこい」
 蒼穹を切り裂いていくその軌跡を見送りながら、カガリはこう呟く。
 アークエンジェルだけではなく、オーブ軍の中から信じられる者達をつけてやった。それでも、不安を隠せない。
「……私は、私がしなければならないことをやらなければいけないんだ……」
 それはわかっている。
 だが、どうしても不安を消すことが出来ない。
 それは、あの男がまだ諦めていないことを自分もよく知っているからだろうか。
「キラを、悲しませるなよ」
 アレックス……と呟く声は風に吹き散らされた。

 その情報は、当然、アスラン達の元へも届いていた。
「……次は、逃がさない」
 むしろ、余計な邪魔が入らなくていいのではないだろうか。そう考えて、彼は笑う。
「次こそは……」
 必ず、その存在を消してやる。
 キラの中からだけではない。この世からだ。
 その結果、また、キラが壊れてしまったとしても構わない。
「そうすれば、ずっと俺が側にいてあげるよ」
 だから、安心していいからね。そう付け加えるとアスランは微笑む。
 その微笑みがどれだけ壊れた物なのか、本人だけが気付いていない。そして、誰も指摘をする者はいなかった。

 ラクスの元にも、アークエンジェルが宇宙へとあがってきたことは伝えられていた。
「……急いで、合流をした方がよいでしょうね」
 ラクスは真っ直ぐに前を見つめながらこう口にする。
「確かに。問題は、合流させてもらえるか、否だが……」
 それに関しては、自分は何とかするしかないのだろう。そう言ってバルトフェルドはいつもの笑みを浮かべた。
「信頼していますわ」
 ラクスもまた、言葉とともに微笑む。
「何としても、このデーターをキラに渡さなければいけません」
 言葉とともに彼女は手にしていたディスクを抱きしめるようにした。
「キラにだけ負担をかけるのは不本意ですが……彼でなければ、これのプロテクトを外すことは出来ないでしょう」
 この中にデュランダルの目的が隠されているはず。それを確認しなければいけない。
 だが、その事実が彼を傷つけはしないだろうか。
 不安があるとすればそれだけだ。
「まぁ、アレックスが側にいるし……大丈夫だろう」
 そんな彼女の気持ちを読み取ったかのようにバルトフェルドがこう言ってくる。
「俺としては、あちらのバカが何をしてくれるか。そちらの方が不安だな」
 地上でもかなり切れまくっていたようだからな、と彼はため息をつきながら続けた。
「本当に……どこまでバカなのでしょうか、彼は」
 そして、どうしてここまで現実を見られなくなっているのか。少なくとも、三年前はここまで酷くなかったはず。
「……離れている間に、悪い方向に成長してくれたようだな」
 あるいは、それすらも誰かの計画に沿ったものなのだろうか。バルトフェルドが理いさな声でそう付け加えた。
「バルトフェルド隊長?」
「……今考えれば、アスランの姿の消し方はどう考えても自然じゃなかった。まるで、何かに追い立てられるように離れていったからな」
 誰かに何かをいわれた可能性はある。
 問題は、どうしてそれを誰にも――もちろん、キラは除外しての話ではある――相談できなかったのか、だ。
「そして、もう一人のお前さんの存在も、俺には引っかかる」
 探すにしても、そう簡単に見つかるはずがない。
 それなりに時間をかけなければ難しいのではないか。
「……まさか……」
 ここまで言われればラクスにも誰が裏で糸を引いていたのかがわかってしまう。いや、わからない方がおかしいと言うべきか。
「だとするならば、あの方はいったいいつから、全てを計画していたと言うことなのでしょうか」
 そして、いつから自分たちの居場所に気付いていたのか、とラクスは顔をしかめる。
「さぁ、な。あのころから、カガリとアスランは比較的一目につく場所にいた、と言うのも事実だ」
 だから、ラクスやキラに比べれば接触は簡単だったのではないか。
「それに……あのころのキラに関してだけ言えば、見知らぬ相手は近づけなかっただろう?」
 そう考えれば、アスラン以外に接触を取れなかった、と言うべきかもしれない。その言葉に、ラクスも頷いてみせた。
「取りあえず、出来るだけ早く捕まえて、みんなでお小言を言ってやりましょう」
 ついでに、性格も矯正しなければ……とそのまま微笑む。
「まずは、自分の非を認めさせないとな」
 バルトフェルドもまた頷いてみせる。
 その瞬間、ブリッジの気温が下がったような気がするのは錯覚ではないだろう。しかし、それに動じるような者は、エターナルのクルーには誰もいなかった。