予備のザクの前でアレックスがデイビスから何か説明を受けている。
「何だよ、あれ」
 ひょっとして、一緒に出るつもりなのか? とシンが側にいたディーノに問いかけている声が聞こえた。
「一緒に出るんだとよ。議長が許可されたって言う話だぜ」
 MSを操縦できるかどうかは知らないけど……と彼は続ける。
「できるはずだ」
 レイはいつもの口調で告げた。
「彼は……アカデミーを卒業しているはず」
 アスラン・ザラならば無論のこと、《アレックス・ディノ》という存在もその前年に《紅》で卒業をしたという記録があるのだ。
 もちろん、それが目の前の相手だとは限らない。
「それに……ここに来るまでザクを操縦してきただろうが」
 この言葉を口にするまで誰もがその事実を忘れていたらしい、というのは何なのだろうか。
「そう言われてみれば、そうだったな」
 そのおかげで自分は取りあえず助かったことは否定しない。シンがどこか悔しげに告げる。
「アスハ代表の存在で、その事実をすっかりと忘れていたわ」
「MSなら、アスハ代表も操縦できるしな」
 さらに仲間達が言葉を重ねてきた。
 それだけ、オーブの英雄の存在が大きかったと言うことか。
「何よりも、今は一人でも多く、人手が欲しい状況だからな」
 話の流れを変えようとレイはこういう。
「だからといって、アスハ代表を危険にさらすわけにはいかないだろう?」
 違うかと問いかければ一人を除いて頷いてみせる。
「代表だからこそ、自分で動けよ」
 その一人がぼそっとこんなセリフを漏らす。
「シン……」
「だって本当のことだろ!」
 人手が足りないんだから、とシンは即座に言い返してくる。だったら、自国民を守るために代表が票が動くのは当然だろう、と彼は主張した。
「もっとも、嘘つきのオーブの代表だからな。そんなことをするはずはないか」
 彼がどうしてそこまで《オーブ》という国を嫌っているのか、自分は知っている。
 それでも、だ。
「俺たちの前ではいいが……議長やアスハ代表の前では口を慎んでおけよ」
 下手をしたら、その一言で国際問題に発展するかもしれない。そう釘を刺しておく。
「……わかったよ」
 納得できないけどな、とそう付け加えながらもシンは頷いてみせた。
「取りあえず、俺たちは義務を果たすだけだ」
 プラントのために。
 この言葉を合図にしたかのようにエイブスがこちらに近づいてくる。
「時間だぞ、お前ら」
 この言葉は主にヨウランとヴィーノに向けられたものだろう。次の瞬間、彼らはあたふたと動き出す。
「先にジュール隊が作業を始めているそうだ」
 それと入れ替わるように近づいてきたエイブスがレイ達に向けてこう言ってくる。
「だから、焦るな。確実に作業を行え」
 これは自分たちの気持ちを楽にさせてくれようとしてのセリフなのだろう。しかし、逆に言えばそれだけ信頼されていないと言うことではないだろうか。
「わかりました」
 それでも、経験の差を考えれば当然のことかもしれない。そう思って、レイは静かに頷く。
「なら、あいつはどうなんだよ」
 しかし、シンは違う。即座にこう噛みついている。
「シン……」
 だから、それはやめろといっただろう……とレイは心の中で呟く。
「今話をさせて貰ったが彼の経験は十分だと思うぞ。ジンは扱ったことがあるという話だしな」
 ザクでの熟練度は低いが、経験で十分埋め合わせができるだろう。エイブスはこう言い返してきた。
「お前達がきちんとフォローできれば、問題はない」
 さらにこう付け加える。言外に、アレックスの邪魔をするな……と言っているのだろうか。
「なら大丈夫ですね」
 そう言うことならば、とあっさりと口にしてくれたルナマリアに感謝をすべきなのかもしれない。
「そうだな。少しでも多く砕くことが重要だ」
 自分たちの手で、とレイは口にする。
 そうすることでデュランダルへの非難が少しでも減るのであれば、なおさらだ。
 彼の立場を守りためならばどのようなことでもできる。
 いや、しなければいけないのだ。
「時間だ」
 その思いのまま冷静な口調でレイはこう告げる。
「……了解」
「頑張りましょう」
 この言葉とともに、仲間達はそれぞれの機体へと足を向けた。それを確認して、レイも自分の機体へと向かう。
「……大丈夫だ、俺は……」
 自分に言い聞かせるように、彼はこう呟いていた。