結果的に、ジブリールはオーブ及びザフトの追求の手を逃れてしまったらしい。 それを確認すると同時に、ザフトはオーブから撤退をしていった。もっとも、機体をおとされたまま帰還できなかった者達を除いて、だ。 その中に、レイ・ザ・バレルがいたことに、アレックスとカガリは驚愕を隠せない。 それ以上に驚きだったのは、キラが彼の身柄を預けて欲しいと言い出したことだろうか。 「……これを、どうする気だ?」 カガリが顔をしかめながらこう問いかけている。 「……まずは、話がしたい」 その後で、どうなるか。それはわからないけど……とキラは続けた。 「それについては教えてもらえないんだな、私は」 まぁ、聞いている時間もあるとは思えないが……と彼女は苦笑と共に続ける。 「……ごめん」 彼女にだけは自分たちの両親が何を研究していたのか。そして、自分がどうやって生まれたのかを知られたくない。だから、と思って、キラは静かに頷いてみせる。 「大丈夫だ」 そんな二人の会話に、当然のようにアレックスが加わってきた。 「……アレックス、重い……」 しかし、どうして彼は背後からキラの体を抱きしめているだけではなく、そのまま体重をかけているのだろうか。 「気にするな」 そういう問題ではないような気がする。 「お前の身柄は心配いらないようだからな。俺はキラの側に付いている」 レイが何をしても対処できるから心配するな。 キラが反論をする前にアレックスはさっさと話を進めている。 「……お前が付いていれば大丈夫か」 しかも、カガリがあっさりと納得しているのには怒ればいいのか。それともあきれればいいのだろうか。どちらだろう、と悩みたくなる。 「私は、バカどもがめちゃくちゃにしてくれた国内の立て直しで手一杯だろうからな。ただ、あまり時間はないぞ?」 その言葉に、キラも頷いてみせる。 ジブリールが宇宙にあがった以上、自分たちも追いかけていかなければいけない。そして、彼の暴挙を止めなければいけないこともわかっていた。 「わかっているよ、カガリ。だから、話をしたいんだ」 今、とキラは口にする。 「……手続きはしておく。でも、無理はするな」 キラが軍の中心とならなければいけないのは、どう考えても自明の理だ……と彼女は続けた。 「僕?」 それは予想外の言葉だったと言っていい。 「あきらめろ」 だからといって、異口同音にこう言わなくてもいいのではないか。キラは思わずため息をついてしまった。 目の前にあるのは、知っているようで知らない光景だ。 「どうやら、俺は……」 捕虜になったようだな、とレイは小さな声で呟く。もっとも、ザフトに入隊した以上、その可能性があることはわかっていた。そして、その覚悟も出来ていた。 でも、実際にそのような場面に出くわしたら、それが吹き飛んでしまうのだ、と初めてわかった。 「ギルは……心配していてくれるだろうか」 それとも、自分など、もう必要ないと思っているのか。 「……シンも、アスラン・ザラもいるから……心配、いらないとは思うが……」 自分に言い聞かせるようにこう呟く。それでも不安を隠せないのは、自分が彼の側にいられないからだろうか。 いや、自分の命がいつ尽きるかわからないからかもしれない。 そんなことを考えていたときだ。 不意に、目の前のドアが開く。そして、見覚えのある二人が中へと足を踏み入れてきた。 「アレックス・ディノに、キラ・ヤマト?」 この問いかけに、アレックスは苦笑を浮かべる。そして、キラは困ったような表情を浮かべた。 「……初めまして、でいいんだよね」 そして、こう口にする。 「俺は、そうです」 彼は、間違いなく 「……僕は、多分君に会いたかったんだと思う……」 もう一人の君から、メールを貰ったその日から……とキラは言葉を返してきた。 「……ラウ、が?」 いったいいつ……と思わず呟いてしまう。同時に、どうして彼が目の前の相手にメールなんかを送ったのだろうか。 「そう……彼の――いや、君達の、かな?――治療データー、だけどね」 きっと、彼は自分の手元に母の残したデーターがあることを知っていたからかもしれない。 「最初は、その意味がわからなかったけど……マルキオ様に君達と同じような人がいるって聞いたから……ひょっとしたら、と思っただけ」 だから、自分に出来ることをしようと思ったのだ……と彼は続ける。 「何を言いたいのですか?」 ラウが彼に何をさせたかったのか。それはわからない。 でも、と思う気持ちがレイの中に生まれてしまった。 「……確実性はない。でも、可能性がある、と言うと言えば、君はどうするのか、それを聞きたいだけ」 自分は専門家ではない。だから、と彼は唇を噛む。 「シミュレーション上では、可能性がある。ただし、実践をする機会はなかったからな。百パーセントとは言えない。それだけだ」 だから、選択権はお前にある。そんなキラの言葉を補足するかのようにアレックスがこういった。 「……俺が……」 その言葉をどこまで信じていいものか。それはわからない。 だが、ラウが彼に可能性を預けたと言うことだけは間違いないだろう。レイはそう信じていた。 |