二人の戦闘能力はほぼ互角だと言っていい。
「……何故、だ」
 しかし、アスランにとって見ればそれは認めがたい――いや、認めてはいけない事実だった。
「どうして!」
 ジャッジメントの性能はジャスティスよりも上のはず。もちろん、相手のそれもジャスティスの後継機である以上、それなりに性能がアップしていることは予想できていた。
 しかし、いや、それだからこそ、実力が上である自分が勝たなければおかしい。なのに、どうしてここまでも苦戦しているのか。
「お前は!」
 どこまで自分を邪魔すれば気が済むのか。
 アスランは怒りのあまり、自分の歯で唇をかみ切ってしまっていたことに気付いていない。
「存在していたことが、間違いなんだよ!」
 パトリックとレノアの子供は自分だけでいい。
 キラの隣にいる存在も、だ。
「だから、消えろよ!」
 自分たちの前から。
 そうすれば、世界は正しい姿に戻るはず。いや、自分がそうしてみせる。
「……俺は、そのためにこの機体を受け取ったんだ!」
 それなのに、どうして目の前の機体を撃ち落とすことが出来ないのだろうか。
 自分が正しいのであれば、世界だって味方をしてくれるはずだ。実際、セイバーを失ってすぐにジャッジメントを手に入れたではないか。
 照準のロックも攻撃も、全て的確なはず。
 それなのに、致命傷はおろか、装甲に傷を付けることすら出来ない。
「ちょこまかと!」
 気に入らない。
 どうして、誰も自分の言葉に耳を貸そうとしないのか。
「……俺が間違っているわけじゃない!」
 自分の言葉に耳を貸そうとしない連中の方が間違っているんだ。
 そう呟く自分の言葉がどれだけ傲慢なものか。それを自力で判断をすることも出来ないほど、アスランの心は目の前の相手に対する怒りと嫉妬で塗りつぶされていた。

 だが、その戦闘も中断せざるを得ない状況へと、世界は動いていた。

『ロード・ジブリールがシャトルを強奪! マスドライバーを移動中です!!』
 オープン回線で、この報告が飛び込んできたのはそれからすぐのことだ。
「ジブリールが?」
 強奪とはどういうことなのか。状況がわからない。
「だが、あいつを逃がすわけにはいかないんだ!」
 ロゴスは確かに壊滅状態に追い込まれたかもしれない。しかし、ブルーコスモスはどうだろうか。
 頭を叩きつぶさなければ、必ず復活をするに決まっている。
 それは、オーブだけではなくザフトだって同じ認識なのではないか。
 それなのに、とアレックスは焦りを覚えていた。
「……それすらも判断できなくなっているのか、お前は!」
 自分に対する怒りで、とあきれたくなる。
「だからといって、俺はやられるわけにはいかないんだよ!」
 特に、アスランには、だ。
 キラに彼を憎ませるわけにはいかない。
 確かに、今はキラは彼のことを忘れている。だが、いつまでその状態が続くのか、誰もわからないのだ。
 だからといって、彼を渡すつもりはない。
「……キラが他人の手を必要としていたときに、彼の側にいたのは、俺だ!」
 自分の感情で他人を振り回すような相手には、彼を渡せない。
 だから、とアレックスは相手の動きを観察する。アスランの癖はわかっているが、その機体の性能はまだ未知数だ。
 それだけではなく、どこを攻撃すれば効率的に相手の動きを止めることが出来るか、わからないのだ。
「まったく……」
 本当に厄介な奴だ。
 そう呟いたときだ。
 不意に二つの機体の間に第三のMSが割り込んできた。
「……ブルーフレーム?」
 それが誰が乗り込んでいる機体なのか、確認しなくてもわかる。
『こちらは引き受けよう。君は君が行くべき場所に行きたまえ』
 やらなければいけないことがあるのだろう、と言われても、すぐには頷けない。アストレイと目の前の機体の性能の差は一目瞭然なのだ。
 だが、とすぐに思い直す。
 経験の差を考えれば、互角なのかもしれない。
 何よりも、彼はアスランを殺すことにためらいを持たないだろう。
「……後は、お任せします……」
 それでも、今はかれに任せるしかない。
 どうして彼がここにいるのか。何を考えて自分たちの間に割り込んできたのか。それはわからない。それでも、彼に任せるのが一番だ、とアレックスはとっさに判断をしたのだ。
『では、後で』
 この言葉とともに、劾がアスランの機体へ攻撃を加える。それを確認して、アレックスはその場を離れた。
『卑怯な!』
 アスランの声が追いかけてくる。しかし、それにアレックスが反応を返すことはなかった。