見知らぬ機体が迫ってくる。
「……この感覚……」
 だが、その機体から感じるプレッシャーのようなものにキラは覚えがあった。
「……ラウ・ル・クルーゼ?」
 そんなはずはない。その事実を一番知っているのは自分だ。それなのに、どうして……と思う。
「それとも……もう一人の貴方がいたのですか?」
 だとするならば、彼は自分自身でキラと戦うことを選択したのだろうか。ふっとそんなことも考えてしまう。
「でも」
 しかし、すぐにその考えを押し殺す。
「だからといって、負けるわけにはいかないんだ」
 自分にはしなければいけないことがある。何よりも、大切な人々を悲しませるわけにはいかない。
「ごめんね」
 機体の性能で言えば、間違いなくフリーダムと互角――いや、ドラクーンシステムがあるだけ相手の方が上かもしれない。
 だが、とキラは心の中で呟く。
 幸か不幸か、彼の動きは自分がよく知っている人たちのそれとあまりにも似すぎている。
 それが偶然なのか故意なのかはわからない。しかし、それが彼にとってマイナスであることは否定できないはずだ。
 事実、自分はそのおかげで相手の動きが読めてしまう。
「君には、聞きたいことも話したいこともあるけど……今は、そうしている時間がないから」
 もしも、この戦闘が終わって、生身で会える機会があれば、その時は……と呟きながら、キラはビームライフルの照準を、目の前の機体の推進部へと合わせる。
「あそこであれば、命に別状はないよね」
 そのままキラは引き金を引いた。

 目の前に軍本部が近づいてくる。
「私は、オーブ代表首長、カガリ・ユラ・アスハだ!」
 応答を求める、と付け加えれば即座に応答が戻ってきた。しかも、それは一番、聞きたくない声だった。
『カガリィ! ボクが悪いんじゃない! ボクはウズミさまと同じような対応をしただけなのに……』
 その言葉に思わず頭痛を覚えたとしても、自分が悪いわけではないよな。カガリは心の中でそう呟く。
「……それよりも、この状況を招いた責任をどうとるつもりだ?」
 民間人に避難勧告をすることもなく、自分のことだけをまくし立てるんじゃない! と心の中で付け加える。先にするべきことがあるだろう。そう考えれば、怒りすらわいてくる。
『ボクは……』
「それとも、全権を私に委譲するか?」
 自分が本物の《カガリ・ユラ・アスハ》だと認めて、と付け加えたのは、間違いなくクレタ沖でのあの一件があったからだ。ここでも同じ主張をするのか。言外にそう問いかける。
『認める、認めるから……』
 その後に、さらに言葉を続けようとしていた。それを無視して、カガリはユウナの側にいるであろう者達に命じる。
「ならば、オーブ代表として命じる! ユウナ・ロマ・セイランを拘束しろ。罪状は国家反逆罪だ!」
『カガリィ!』
 即座に不満の声が返ってきた。しかし、それは他の者達の動きで遮られる。
『カガリ様』
 一分と経たずに現在本部に詰めている将官の声が返ってきた。
『ご指示を』
「まずは、軍の指揮系統を立て直せ。それから、民間人の避難誘導を」
 これ以上、民間人に被害を出すな、とカガリは言い切る。
『了解致しました!』
 彼等もそれを望んでいたのか。即座に言葉を返してくる。その事実に、カガリはほっと安堵のため息をつく。
「後は……あちらへの対処だな」
 一番いいのは、自分たちがジブリールを確保することだろう。しかし、セイランにはまだウトナが残っている。だから、むずかしいのではないか。
「それでも……これ以上、オーブの国土を焼かせないためにも……」
 自分が頑張らなければいけないのだ。
 カガリは決意を新たにしていた。

「……ジブリールがいるとすれば、セイランが関係している場所だろうな」
 できれば、自分が彼の身柄を確保したい。そう考えていたのはアレックスも同じだ。
「キラには、させられないだろうからな」
 最悪、生身の相手を傷つけなければいけないだろう。しかし、それをキラにさせるわけにはいかない。
 もちろん、カガリにも、だ。
 だから、自分がしなければいけない。
 そんなことを考えていたときである。
「ちっ!」
 センサーにこちらに接近してくる機体が映し出された。
「新型か!」
 だとするなら、あいつかもしれないな。とっさにそう判断をする。
「どこまで、あの二人の気持ちを逆撫ですれば気がするんだ、お前は!」
 少なくとも、この状況を何とかすることが出来たかもしれないのに。自分に対する怒り以外何も見えなくなっているのか。そう考えればあきれたくなる。
「先にすべき事があるだろうが」
 もっとも、それが出来ないからこそこうしているのだろう。
「……問題なのは、相手の性能か」
 インフィニット・ジャスティスもそれなりに性能が上がっている。だが、相手のそれもまたジャスティスの後継機らしい。ファクトリーからデーターが流出したとは考えられないから、間違いなくザフトが独自に研究開発してきたものだろう。
「だからといって、負けるわけにはいかない」
 キラをまた、あの時の姿に戻すわけにはいかないのだ。
 だから、とアレックスは相手の機体をにらみつける。そんな彼の奥で、不意に歯車がかみ合うような感覚がした。