しかし、セイランは予想以上にバカだったらしい。 「何を言っているんだ、あいつは」 既にジブリールは国内にいない。そう返答したと聞いた瞬間、カガリはあきれたように吐き捨てる。 「……ウズミ様がアークエンジェルがオーブにいたときにザフトに返したセリフだね、それは」 キラが眉を寄せながらこういった。 「そうだ。それが通用すると思っているところがバカなんだ」 カガリも即座に頷いてみせる。 「……ウズミさまと自分を同列に見ている、と言うことか?」 格の違いを考えればいいものを、と一刀両断にしたのは、もちろんアレックスだ。 「あれは、相手がウズミ様だったからこそ、ザフトも引き下がらざるを得なかったんだ。他の誰かでは絶対にダメなんだ」 たとえば、カガリでも……と付け加えられても、それが真実だとわかっているから腹も立たない。 自分がこうしてみなに協力をしてもらえているのは、ウズミの養女であったから、と言うことが理由の一つだろう。そして、前の戦いをこの目で見てきたからではないか。 だが、それ以上に大きいのは、キラをはじめとしたアークエンジェルの者達が自分に協力をしてくれているからだ。 「自分の力量不足を認識できていれば、それを補うことが出来るわ」 だから、今はみなに甘えなさい。 まるでカガリの心の内を読み取ったかのようにマリューが微笑みを向けてくる。 「完璧な人間なんて、この世界にはいないのよ」 だから、努力を続けていけばいいだけ。そのための協力ならば惜しまない。彼女はさらにこう言葉を重ねてくれた。 「ともかく……問題なのは、ザフトがどう出るか、だな」 アレックスが思いきり渋面を作っている。 「……それ以上に、セイランが民間人に避難勧告を出しているかどうかの方が心配だよ」 あれで通ると思っているんでしょ? とキラは不安そうに呟く。だとするならば、民間人達は何が起こっているのか知らないはずだ、とも彼は続ける。 「ヘリオポリスやオノゴロの二の舞だけは避けないといけないんだ」 あんな悲しい光景は、もう二度とみたくはない。彼はそうも口にする。 「わかっている。私だって、もう見たくはない」 だからこそ、早くセイランから実験を取り上げなければいけないのだ。カガリは言葉とともに唇を噛んだ。 「いざとなったら、俺たちが先行をする。それだけでも、抑止力にはなるはずだ」 フリーダムとジャスティスであれば、とアレックスが口を開く。 「何を言っている! それなら、私もルージュで出る」 二人にだけ全てを押しつけるわけにはいかない。むしろ、責任を負うなら自分だろう。その思いのままカガリはこういった。 「……まぁ、向こうに着けばお前の護衛は手にはいるか」 そこまで面倒を見ていられる余裕があるかどうか。 いったい何を予想しているのか。アレックスは顔をしかめながらこう呟く。 「……あの人が出てくる、と思っているの?」 キラがそっと彼の袖を握りしめながら問いかけた。 「前の機体は壊してやったが……俺たちと違ってザフトには余力があるだろうからな」 間違いなく出てくるだろう。 この一言だけで、彼等が何を心配しているのかわかってしまった。 「もう一人、バカがいたな……そういえば」 既に、自分たちにとっては関係のない人間。それどころか敵に成り下がってくれた相手のことを完全に忘れていた、とカガリはため息をつく。 「大丈夫だ。あいつに関しても、何とかするさ」 俺が、とアレックスは笑う。そんな彼の表情に、キラもまた安心したような表情を作った。 キラがこんな風な表情を見せてくれるために、どれだけアレックスが努力を重ねてきたと思っているのか。それも知らずに、おいしいところだけとっていこうとする相手は許せない。 「……そうだな。その時はオーブの使える全砲門をあいつに向けてやろう」 カガリは思わずこう呟いてしまった。 「お久しぶりです、劾様」 ラクスは目の前の相手にこう声をかける。 「確かに。だが、今はゆっくりと挨拶をしている場合ではないと思うが?」 この言葉に、ラクスは苦笑を浮かべた。 「おっしゃるとおりですわ」 確かに、時間はない。だからこそ、ジャンク屋を通じて彼等を呼び出してもらったのだ。 「依頼の内容を確認する。セイランの確保とカガリ・ユラ・アスハの護衛。それだけでいいんだな?」 淡々とした口調の裏に、自分たちの技量に対する自信が見え隠れしている。 「はい。それで十分ですわ」 それだけでもキラ達の負担は軽くなるはず。 ジブリールに関しては、カガリ達の判断に任せておけばいいだろう。彼女もそろそろ自分自身だけの考えで物事を進めなければいけない時期に来ているはずだ。 「……ついでに、口説かせて貰っていいかな?」 微かな笑いと共に彼はこう問いかけてくる。 「誰を、ですか?」 想像は付いているが、と言外に滲ませつつ聞き返す。 「彼等の技量は是非欲しいからな」 「そんなことをされては、ジャンク屋のみなさまも押しかけてきますわよ」 そうなったら、収拾がつかなくなるのではないか。まして、今のオーブでは、だ。 「では、しかたがない。顔をつなぐだけで今回はよしとしておこう」 その分のサービスはしておこう。小さな笑いと共に彼はきびすを返す。 彼の後ろ姿をラクスは静かに見送った。 |