ジブリールがオーブに逃げ込んだと言う情報がキラ達の元にもたらされたのは、それからすぐのことだった。
「また、セイランか!」
 ブルーコスモスの盟主なんかをかくまったら、世界からどのように見られるか。それすらも理解できていないのか、とカガリが怒りをあらわにする。
「それ以上に厄介なのは、対応を間違えれば、オーブ国土に侵攻の口実を与えることになるぞ」
 また国土を焼くことになるのか、とカガリは愕然としている。
「……ともかく、少しでも早くオーブに到着できるように努力しましょう」
 マリューが表情を引き締めるとこう告げた。そのまま、側にいたアマギ達に何かを命じている。
「エリカ主任に連絡を取っておいた方がよくない?」
 その会話を聞きながら、キラはアレックスに問いかけた。
「そうすれば、オーブで何が起こっているのか、教えてくれるでしょ?」
「……確かに、彼女であればそうしてくれるだろうな」
 そうしてもらえれば、こちらも対策がとりやすい、と彼は頷いてくれる。
「だが、それならばメールはカガリに書かせた方がいいだろう」
 そのまま、彼はこう付け加えた。
「私?」
 その言葉に、カガリが驚いたように問いかけてくる。
「そうだ。お前が代表だろう?」
 オーブの今後に関わる内容であれば、代表であるカガリが頼むのが当然ではないのか。アレックスがこう言い返す。
「僕も、そう思うよ」
 確かにカガリが頼むのが、一番筋が通っている。キラもそう言って頷いてみせた。
「……わかった……確かに、私がすべきなんだろうな」
 もっとも、送信に関してはキラに頼まなければいけないだろうが。カガリはそうも付け加える。
「そのくらいならね。でも、文面は考えないからね」
 ちゃんと自分で考えてね、とキラは笑う。
「……キラ、お前な……」
「だって、それもカガリの仕事でしょう?」
 キラがこう言えば、カガリは思いきり顔をしかめてみせた。
「俺も手伝わないからな。頑張れ」
 校正ぐらいは付き合ってやるが、とアレックスもそんなカガリに追い打ちをかけている。
「……お前ら……私を困らせて楽しんでいないか?」
 子供のように頬をふくらませながらカガリがこう言ってきた。
「お前、な。俺たちがいつまでも側にいられると思うなよ?」
 自分一人だけで判断しなければいけないことだってこれから出てくる。それなのに、そんな甘えたことを言ってどうするんだ、とアレックスは言い返す。
 その言葉に半分だけは同意だ。
 でも、とキラは不安になる。
 ひょっとして、今回のことが終わったらアレックスは自分から離れていってしまうつもりなのだろうか。
「あのバカの問題が片づくなら、俺はキラの方に専念するからな」
 おそらく、ラクスも忙しくなるだろう。だから、これからは自分がキラの側にいるのだ……とアレックスは笑う。
「アレックス?」
 まさか、そんなセリフが返ってくるとは思ってもいなかった。だから、キラは思わず彼を見つめてしまう。
「今までは、ラクスがいてくれたから、カガリに付いていただけだ。ミスをするとセイランにつけ込まれるだろうしな」
 そのせいでキラに厄介ごとが降りかかってきたら困るだろう? とアレックスは何でもないことのように付け加える。
「アレックス……」
 嬉しいけれど、何かものすごく恥ずかしいような気がするのはどうしてなのだろうか。
「はいはい……のろけはそこまでにしておいてね」
 苦笑と共にミリアリアがこうつっこんでくる。
「聞いている方が恥ずかしいぞ、まったく」
 いくら公認とはいえ、もう少し周囲の状況を考えろ、とカガリはため息をつく。
「だが、そう言うことならばしかたがないな。妥協してやろう」
 確かに、キラの側にアレックスがいてくれるのが一番いい。自分のフォローは他のものでも出来るだろうから、と彼女は頷いてみせた。
「これからは他の誰に遠慮することなく、信用できるものを側に呼び寄せることが出来るだろうし」
 もっとも、と彼女は顔をしかめる。
「その前に、あちらを片づけてから、だ」
 遊んでいる暇はないな、と口にしながら、彼女はブリッジを出て行く。
「二時間以内にメールを書き上げてくる。取りあえず、そうしたら文面を確認してくれ」
 それと、出来るだけ情報を集めて欲しい……と彼女はさらに言葉を重ねた。
「わかっているよ、カガリ」
「……取りあえず、機体の整備も確認させないと」
 他にも色々と、とマリューも頷いてみせる。
「ムラサメ隊にもいつでも出撃できるように準備を整えさせておきます」
 アマギもまたこう告げた。
 それはいいことなのだろうか。キラは少し悩む。
 それでも、戦わなければ平和を手にすることができないと言うこともわかっていた。
「……もう二度と、オーブを焼くことにならなければいいのに……」
 キラは思わずこう呟く。そんな彼の肩をアレックスがそっと抱きしめてくれた。