世界を戦争に導き、自分たちの私腹を肥やした存在ロゴス
 二度の戦争で疲弊をした人々の怒りが彼等に向けられたのは当然のことなのだろうか。
「……地球軍の軍人までもが、軍を離脱してザフトと行動を共にしているそうだ」
 カガリがため息とともにこう告げる。
「だが、現在、オーブ軍は動いていない」
 人々はどうか、わからないが……と彼女は続けた。
「……それで、カガリはどうしたいの?」
 キラがこう問いかける。
「キラ?」
「カガリがどうしたいか。それを聞かないと、僕たちは動けないよ?」
 自分ではない。カガリが選択をすべきだ、とキラは言外に告げてきた。その事実に彼女は一瞬逃げ出したくなる。
 しかし、それは出来ない。
 自分がオーブの代表首長なのだ。キラもアレックス達も、そんな自分を支えるためにここにいてくれる。だから、自分が選択をするのが当然なのだ、とカガリは唇をかみしめる。
「私は、オーブに帰ろうと思う」
 自分の言葉に耳を貸してくれるものが、今、どれだけいるかわからない。
 それでも、このまま世界が二つに割れることだけは避けなければいけない。
「何よりも、私はオーブの代表だから」
 この言葉に、アマギをはじめとするオーブの軍人達が嬉しげに笑う。キラとアレックスは静かに頷いているし、マリューも微笑んでくれた。
「ひょっとしたら、一番辛い選択なのかもしれない。でも……いや、だからこそ、みんなの力を借りたい」
 こう言って、カガリは頭を下げる。
「何をおっしゃいます、カガリ様。我々は、カガリ様に従います」
 即座に口を開いたのはアマギだ。
「その覚悟で、この場に参りました。いや、我々だけではなく、ここに来られなかった者達も同じ気持ちでしょう」
 現在、地球軍の要請に応じていないのがその証拠ではないか。彼はそう続ける。
「そうだろうな」
 アレックスが、アマギの言葉に同意をするように頷いてみせた。
「お前がここで俺たちと行動を共にしている。その事実は、間違いなくオーブ軍全体に広がっているだろう。そして、オーブ軍の最高責任者は代表首長であるお前だ」
 お前が気持ちを決めたのなら、みなはお前に従うだろうな、と彼は続ける。
「そうだね。カガリが決めたのなら、僕は君の手伝いをするだけだよ」
 キラもまた微笑んでみせた。
 誰の言葉よりも、キラのそれが一番嬉しい。
 そんなことを言ってはいけないのだろうが、とカガリはそれでも笑みを隠せない。
「ありがとう」
 だから、これからも支えてくれ。
 この言葉とともに、カガリは頭を下げる。
「カガリ……」
 そんな彼女に向かって、キラが困ったように声をかけてきた。
「……それまでにしておけ。ここの連中なら問題はないが、セイランに近い連中の前でそれをやったら、あのバカがつけあがるぞ」
 そんなキラの困惑を受けてだろう。アレックスが苦笑とともにこう言ってくる。
「オーブの対応次第ではもう一人の馬鹿も出てきそうだ。そう考えれば、ここできっちりと片づけないとな」
 彼の言う《バカ》が誰のことなのか。元々アークエンジェルのメンバーにはわかったようだ。
「……取りあえず、現在、オーブにいるバカを優先して片づけましょう」
 何か、一番きついのはマリューではないだろうか。もっとも、そうでなければある意味くせ者揃いのこの艦をまとめていられないのかもしれない。
「確かに、いい加減あいつらを放り出したかったからな。きっちりと片を付けよう」
 しかし、カガリも彼女の言葉には元々同意だ。だから、と頷いてみせる。
「そうだな。今度こそ、オーブの理念を実現しなければいけない」
 そのためにもオーブに巣くっている厄介な連中を一掃しなければ。この言葉とともにカガリは顔を上げ、真っ直ぐに前を見つめた。

 ブルーコスモスの本拠地が紅蓮の炎に包まれている。
「……取りあえず、これで終わったのか?」
 シンが小さな声でこう呟いた。
「どうだろうな」
 まだ、ブルーコスモス盟主ロード・ジブリール を確保したという知らせも、その遺体を発見したという報告もない。あの男を逃がしてしまっては意味がないのだ。
 しかし、シンの方も明確な答えを希望していたわけではないようだ。
「でも……恐いな」
 この力は、と代わりに彼はこう呟いている。
「シン?」
「……力は欲しかったんだけどさ……でもここまで圧倒的だと、逆に怖くなる」
 確かに、これだけの力があれば自分が守りたいものを守れるだろう。しかし、とシンは唇を噛む。その視線の先に、降伏しようとしている者達を虐殺している民衆の姿があった。間違いなく、彼等は今までの鬱憤をぶつけているのだろう。
「……確かに、あの光景は怖いな」
 それでも、自分たちは間違っているとは思えない。
 いや、デュランダルは、と言うべきか。
「だが、それもあいつらの自らの選択が招いたことだ」
 そうだろう、と問いかければ、シンは取りあえず頷いてみせる。
 その時だ。
「大変だ! ジブリールが逃走した!」
 彼等の耳に、こんな叫びが届く。
「マジかよ」
 あいつを逃がしては意味がないのではないか。シンの言葉は他の者達のそれを代弁していると言っていい。
「取りあえず、今、捜索をしているそうだ。発見次第、また出撃をしてもらわなければいけない」
 だから、待機をしていてくれ。この言葉に、二人とも頷いてみせる。そして、そのままそれぞれの機体に戻っていった。