目の前に、三機のMSが存在している。そのうちの一機がジャスティスによく似ているような気がするのは、アスランの錯覚ではないだろう。 「どうやら、君達には今の機体では力不足のようだからね」 そう言ってデュランダルは微笑んだ。 「シンにはデスティニーを、レイにはレジェンドを使って貰おう」 この言葉の後に、彼はそれぞれの機体の特徴を口にしている。しかし、アスランの意識は彼の声ではなく目の前の機体に向けられていた。 「アスラン、君にはジャッジメントを」 ジャスティスとほぼ同じコンセプトで作られた機体だよ。この言葉で、自分が目の前の機体に抱いていた既視感の正体をアスランは理解した。 「これなら……」 アレックスに負けるはずがない。 アスランはそう考えると唇の端を持ち上げた。 ここしばらく、戦闘がないからだろうか。キラは落ち着いているように見える。 だが、どこに火種が残っているかわからない、というのは事実だ。 ラクスの不在がキラにどれだけ影響をしているのか。ずっと離れずにいてくれた彼女が今はいない。それがキラにとってマイナスに作用していることは否定できないだろう。 だが、とアレックスは心の中で呟く。 今は自分がここにいる。だから、最悪のことにはならないのではないか。 「……問題はあいつが出てきたとき、だがな」 アスラン・ザラ。 忘れられているはずなのに、キラの心の底でその存在はうごめいている。それだけならばまだしも、キラの心の傷を広げようとしているのだ、あいつは。 「お前には、渡さない」 キラの隣は。 そう呟きながら、そっと視線を彼に向ける。アレックスの肩に頭を預けながら、キラは安らかな表情で眠っていた。 そんなキラを起こすわけにはいかない。ここで寝かせるよりはベッドに移動させた方がいいのはわかっているが、それでは彼を起こしてしまいそうだ。 さて、どうするか。 取りあえず、ブランケットぐらいは掛けてやりたいのだが、下手に動けばキラを起こしてしまう。 そんなことを考えていたときだ。 「キラ、アレックス!」 タイミングがいいのか、悪いのか。ミリアリアが踏み込んできた。その手にファイルがあると言うことは、何かキラのサインが必要な書類なのだろう。 しかし、彼女は目の前の光景に気付くと、優しい笑みを浮かべた。 「急ぎじゃないから。キラが起きたら渡してくれる?」 この言葉とともにアレックスにそのファイルを差し出してくる。 「あぁ」 「貴方も、中を確認しておいてね」 キラが説明するよりも確実でしょう、と言われて、アレックスは苦笑を浮かべた。 「そうでもないと思うがな」 キラの説明はわかりやすい。少なくとも、カガリのそれよりは、だ。 ただ、時々脱線してしまうことがある、と言う事実は否定できないが。それは聞く側が修正をすればいいだけのことだろう。 「まぁ……キラのことを知っていればそうよね」 知っていても出来ないバカがいるようだけど。そう毒をはき出しながらも、ミリアリアはブランケットへと手を伸ばす。そして、そうっとキラへとかけてやっている。 「そういう奴は、二度とキラに近づけないだけなんだけどね」 生まれなんて関係ない。人種も同じだ。 大切なのは、今のキラを見つめて受け入れてくれることだけなのに。 「……そうだな。俺が言うべき言葉ではないのかもしれないが」 キラの心が弱っているところにつけ込んだ。そう言われてしまえば反論できないのだ。 「何言っているの。誰も貴方のことを悪く言わないわよ」 あのバカ以外は、とミリアリアは微笑む。 「私たちはみんな、貴方がキラの心を癒やすのに、どれだけ尽力してくれたのかを知っているもの」 それをしてくれた人間を非難できるはずはない。 「第一、貴方もキラの幼なじみでしょう?」 そして、今のキラにとって《アスラン・ザラ》は必要ない。 だから忘れられただけだ、と気付いていないのは、あの男だけではないか。 「私たちの前に実際に顔を出したら、今度こそカガリさんが一発殴ってラクスさんがお小言を言ってくれるでしょう」 はっきり言って、それ以上に怖いことはないのではないだろうか。そんなことも彼女は口にする。 「俺なら、絶対にごめんだな」 そのような状況に絶対陥らないのはキラだけだ。だから、自分だって気を抜けばどうなるか。わかっているからこそ、あの二人だけは本気で怒らせないようにしていると言っていい。 いや、自分だけではない。 あのバルトフェルドでさえそうだ。 「二人とも、忠告は素直に受け入れてくれるから、まだいいんだがな」 でなければ、どうなっていることか。苦笑と共にアレックスはそう告げる。 「二人とも懐が広いもの」 人間、度量の広さが重要のね……とミリアリアは口にすると体の向きを変えた。 「じゃ、キラのことをお願いね。疲れているようだから、ゆっくりと眠らせて上げて」 オーブの人たちがいるから、何かあっても、しばらくは大丈夫だろう。彼女はそう続ける。 「あぁ、わかった。食事時にはたたき起こすだろうがな」 「それはお願いね」 小さな笑いと共に、ミリアリアはドアの向こうへと姿を消した。その後ろ姿が見えなくなったところでアレックスは表情を引き締める。 「もし、MSで俺たちの前に立ちふさがったら……今度は本気で叩きつぶす」 キラの隣にお前が立つことは許さない。 アレックスは自分の中の |