ジャンク屋から予想外の連絡が入って来たのは、翌日のことだった。 「……取りあえず、ラクス達がプラントに行くための手段は確保できたそうだ」 こちらに関しては問題がない。だから、ためらうことなく言葉を口にする。 「それともう一つ、話があったそうだが……」 「厄介ごと?」 アレックスが言いよどんだことから判断したのだろうか。キラがこう問いかけてきた。 「いや。厄介ごとではない、と思う」 ちょっと面倒な事態だとは思うが、とアレックスは付け加える。 「なら、何なんだ?」 どこかおもしろがるような口調でバルトフェルドが口を挟んできた。 「……オーブ軍の生き残りが、合流したいから連絡を取ってくれ、と言ってきているらしい」 自分とジャンク屋の関係は、彼等も知っているからな……と言い返す。 「……オーブの軍人が?」 この言葉に、カガリが目を丸くした。まさか、そう言われるとは思っても見なかったのだろう。 「……彼等は、私を恨んでいると、思っていたのに……」 小さな声でこう呟いた彼女の肩をマリューとラクスがそっと抱きしめている。 「恨んでなんかいないさ。あいつらにとって、命令は絶対。お前に対する感情とそれとは別問題だっただけだろう?」 おそらく、今回のどさくさで軍から離れたのではないか。あるいは、カガリのことを守りたいと思っていた者達が口裏を合わせて、連絡を取ってきた者達を送り出してくれたのかもしれない。 「どちらにしても、確認しないといけませんね」 彼等が何を考えて合流したいと言っているのかを、とマリューは告げる。 「ラミアス艦長?」 「人手不足はいつものことでしょう? だから、協力してくれるならば、その方がありがたいわ」 嘘偽りのない言葉に、誰もが苦笑を浮かべてしまった。 「こちらが了承をすれば、ラクスとバルトフェルド隊長をジャンク屋に引き渡す場所に彼等も来るそうだ。連中が立ち会ってくれるなら大丈夫だと思うが?」 それに、彼等のことをバルトフェルドもその目で確認できるだろう。アレックスはそう告げる。 「確かに。わたくしもその方達をこの目で拝見させて頂きたいですわ」 ラクスが微笑みと共に頷いてみせた。 「そうすれば、安心してプラントにいけますわ」 彼女の言葉に、キラが無意識にアレックスの服の裾を握りしめてくる。しかし、それを指摘する者は誰もいない。 「……カガリ、どうするの?」 キラはキラで、彼女にこう問いかけていた。 「私?」 まさか、自分に話が振られると予想していなかったのか。それとも、別のことに意識が向けられていたのか。カガリが慌てたように自分を指さしている。 「そう。多分、皆さんが会いたいのはカガリなんだ。だから、カガリが決めなきゃ」 違う? と言うキラの言葉はもっともなものだ。 あくまでも冷静なその口調だからこそ、余計に怖い。いや、正確に言えば本人が自覚をしていないから怖い、と言った方が正しいのか。自分の目で見ていないから、はっきりとは言えないが、前の戦争の時の状況に似ているのかもしれない。 「……わかった」 同じ判断をしたのか。カガリは表情を引き締める。 「私に協力をしてくれるかどうか。それを確認しに行ってくる」 パイロットがいれば、キラの負担も減らせるしな……と彼女は続けた。 「僕の負担?」 キラが首をかしげながら聞き返している。 「そうだ。バルトフェルド隊長がラクスと一緒にプラントに行った後、お前が私の護衛もこなすつもりだったんだろう?」 いくらなんでも、戦場ではそれは無理だ。むしろ、キラには自由に動いて貰いたい。そして、アレックスにはそんなキラのフォローをして貰った方がいいだろう。カガリはさらに言葉を重ねた。 「そうだな。その方が戦術的にはいい」 バルトフェルドも頷いてみせる。 「だから、私の護衛をしてくれるパイロットがいてくれれば楽だな。そう思っただけだ」 パイロットでないにしても、自分たちにとってプラスになることは否定できないだろう。そう彼女は結論づけた。 「カガリが、そうしたいなら……でも、僕も一緒に行くからね」 「と言うことは、俺も付き合うと言うことだな」 今、キラの側を離れたくない。アレックスはそう心の中で付け加える。 「……そんな大げさにしなくても……」 カガリが慌ててこう言ってきた。 「あきらめろ」 それをバルトフェルドが一刀両断にする。 「こちらは心配いらないわ。隠れていれば見つからないだけだもの」 戦闘は避けるから。マリューもまたこう言って笑う。 「じっくりと話し合っていらっしゃい」 連れてくるなら、部屋の準備などがあるから、一声かけてね。そう言って笑える度量があるからこそ、彼女は魅力的なのかもしれない。 アレックスは、改めてその事実に気が付いた。 オーブ軍のメンバーが自分たちとの合流を希望したのは、タケミカヅキの艦長であったトダカの遺言に背中を押されたから、らしい。 もちろん、それはカガリのためだ。同時に、キラをしたって、と言う理由もあった。 「よろしくお願いします、キラさま」 こう言って頭を下げられて、彼は目を白黒させている。その様子に、アレックスは思わず小さな笑いを漏らしてしまった。 |