『キラ!』
 フリーダムの後を当然のようにアスランは追いかけようとする。
「させるか!」
 この戦場で、あんな風にキラを動揺させてどうしようとしていたのか。
 もし、あの時のような状況になっていたら、彼の命は失われていたかもしれない。その可能性に、アレックスは怒りを抑えきれない。
「キラを追いつめることしかできない人間が!」
 言葉とともに、遠慮なく攻撃を開始する。
『お前が、俺とキラを引き裂いたんだ!』
 アスランもまた、即座に応戦をしてきた。
「勝手なことを!」
 そもそも、アスランがキラと離れなければこんなことにはならなかったのではないか。あの状態のキラを放り出していったからこそ、彼は自分の存在を思い出したのだ、とアレックスは言い返す。
「誰もが自分の思い通りに動くと思うな!」
 個人個人に、自分の判断基準が存在している。そして、それは決して同一のものではない。
 それを理解できないからこそ、あんな風にキラを傷つけるのか。
「俺を選んだのはキラ自身だ!」
 そして《アスラン・ザラ》と言う人間の存在を忘れることにしたのも、だ。
 そうしなければいけなかったキラの精神状態にも気が付かなかったくせに、とそうも思う。
「世界は、お前を中心に回っているわけではない!」
『うるさい!!』
 お前さえいなければ! とアスランはさらに攻撃をしてくる。
 怒りのためか、それは激しさを増してきた。だが、冷静さを欠いているために微妙に狙いが甘い。
「……お前の戦闘パターンは、わかっているしな」
 だからこそ、こうして避けることが可能だ。もっとも、インフィニットジャスティスの性能が優れている、と言うことも否定できないが。
 しかし、機体の性能が優れていても、使いこなせなければ意味がない。
『俺の方が!』
 キラにはふさわしいんだ! とアスランが叫ぶ。
「それを決めるのは、キラだ!」
 貴様が決めることではない! そう言い返す。
 しかし、自分と同レベルの相手と戦うのは本当に厄介だ、と心の中でアレックスは呟く。シンやレイのように未熟さも見えれば、もっと簡単なのに、とも付け加える。
「殺しても構わないなら、凄く簡単なんだがな」
 あんなのでも、キラの友人だったのだ。そして、自分の兄弟――そう認識したことは一度もないが――でもある。
「ともかく、さっさと戦場から消えて貰おうか」
 機体さえ使えなくしてしまえばいい。
 それだけで、アスランは――少なくとも今は――戦場からいなくなる。それだけでも、キラの気持ちはかなり楽になるだろう。そして、カガリも目の前のことだけに集中できるはずだ。
 相手を傷つけずに機動性を殺すのはむずかしい。
 しかし、機体の手足を失ってまで戦えるだろうか。
 何よりも、一点を狙うよりも手足の方が標的が大きい。  そう考えれば、答えは一つしか出てこない。
「今のお前は、俺たちには不要なんだよ!」
 言葉とともにアレックスはビームサーベルを抜いた。

 カガリは、目の前の光景に何と言えばいいのかわからなくなってしまった。
「……どうして……」
 軍人にとって、上官の命令は絶対。それがどれだけ理不尽なものだとしても、だ。
 だからこそ、上に立つ者は少しでも彼等を死なせないようにしなければいけない。
「どうして、貴様は……」
 それなのに、今、自分の目の前でオーブの軍人達の命が捨て駒のように散っていく。本来であれば、地球軍が負うべき被害までも一身に受けて、だ。
「兵士は道具ではない! それがどうしてわからないんだ!」
 ユウナ・ロマ・セイラン! とカガリは叫ぶ。
「退くべき時を見誤って、何が指揮官だ!」
 一時の敗戦と有能な将官達の命。その二つのうち、どちらが重いのかなんてわかりきっていることではないのか。そうも言いたい。
『それがわかっているだけでも、お前は有能なんだよ』
 いつの間にか側に来ていたバルトフェルドがこう声をかけてくれる。
『お前もキラも、命の重さをわかっている。だからこそ、命を預けてもいいと思っているものは多い』
 だからこそ、カガリは最後まで見つめなければいけない。
 彼はそうも付け加えた。
「わかって、います」
 歯の隙間から、カガリは言葉を絞り出す。
 彼等の死に様を見届けるのも、自分の役目だ。
 だから、目をそらすわけにはいかない。
 それでも、と思ってしまう。どうして、自分はこの光景を防ぐことが出来なかったのだろうか。
「……私は……」
 この呟きは、カガリの口の中だけで消えた。

 オーブ軍に多大な被害を与えて、戦闘は終わった……