前回は、洋上での戦闘だった。
 しかし、今回は湾内での戦闘である。
 それについては、背後から襲われないという利点があるのだろう。でも、とキラは唇を噛む。
「だからといって、民間人を巻き込むなんて……」
 攻撃の対象がザフトの基地だけならばまだ妥協できた。しかし、オーブ軍の砲塔は民間人が住んでいる地区にも向けられている。
 自分たちを守るためならば、他国を焼いてもいいのか。
 オーブ軍は、自国を守るために存在していたのではないのか。
 そう考えれば、怒りではなく悲しみがわき上がってくる。
「どうして……」
 そう言ってくれたのは彼等なのに。
 確かに、軍人である以上、上官の命令には絶対服従だ。それはわかっている。でも、許せることと許されないことがあるのではないか。
 軍人だからこそ、民間人を守らなくてはいけないのに。
「……ともかく、砲座を潰さないと……」
 そうすれば、少なくとも戦艦は後方に下がるだろう。ムラサメやアストレイに関してはアレックス達に対処してもらうしかないが、彼等であれば大丈夫だろうし。そう思いながら、ビームライフルの照準を合わせる。
「お願いだから、大人しく下がって」
 言葉とともに引き金を引く。
 狙いを違うことなく、ビームは砲台だけを破壊した。
 攻撃手段を失ったからか。その艦は後退していく。
「……よし」
 自分の考えが間違っていなかったことにキラはほっとする。そのまま次の艦に向かって照準を合わせた。
 もちろん、ねらえるのであればオーブ軍以外の艦の砲台も破壊していく。
 その間にも地球軍、ザフト軍にかかわらずMSがフリーダムに攻撃を加えてきた。しかし、それはアレックスやバルトフェルド達が退けてくれている。
 カガリに関してはアークエンジェルの護衛と言うことで、少し離れた場所にいるからさほど心配はいらないだろう。そんなことも考えていた。
 まさにその時だ。
「……えっ?」
 視界の隅を朱い機体がかすめる。
 それがアスランが乗っていた期待だ、と思いだしたときにはもう間近まで迫っていた。
『何をしているんだ、お前は!』
 また戦場を混乱させる気か! と彼は叫びながらフリーダムを捕まえようとしてくる。
「だからといって、民間人が巻き込まれているのを見過ごせない!」
 それを避けながらキラは言い返す。
『そんなのは、お前には関係ない!』
 しかし、彼から返ってきた言葉は、キラからすればしんじられないものだった。
『結局は、お前の存在そのものが世界を混乱させているんだな』
 キラがいなければ、カガリだってこんなことをしようとは思わなかったはずだ。彼はそう続ける。
『そんなことは、認められない! だから、俺がしっかりと矯正してやる』
 どうして、そこまで言われなければいけないのか。
 そもそも、彼にそんなことを言う権利があるのか、とキラは混乱をする。それでも、彼の言葉が受け入れられないものだ、と言うことは事実だ。
「僕は、僕が正しいと思っている行動を取っているだけです!」
 みなもそれに賛同してくれている。だから、ここにいるのだ……と言い返す。
『それが間違っていると言っているんだ! 前の戦争の時だって、ナチュラルの友人を見捨てられないからと言ってお前が地球軍に味方をしたせいで、どれだけ戦場が混乱したのかを忘れたのか!』
 忘れてはいない。
 それでも、今の状況を見過ごせないだけなのだ。
 しかし、すぐに言い返すことが出来ない。
『お前は、俺の言うことを……』
 その後に何と続けようとしたのか。
 しかし、アスランはそれを最後まで言うことが出来ない。脇から飛び出してきたインフィニットジャスティスがフリーダムとアスランの機体の間に割り込んできたのだ。
「アレックス!」
 その紅を見た瞬間、キラは自分自身が安堵に包まれるたのを自覚した。
 ここが戦場でなければ、彼にすがりつきたいとまで思う。
『そいつの言葉に耳を貸さなくていい』
 アレックスの声が代わりにキラを抱きしめてくれる。
『こいつの相手は俺がする。だから、キラは自分がしなければいけないと思うことをやれ』
 自分たちはそれを手伝うだけだ、と彼は言ってくれた。
「アレックス」
 それでも、とキラは不安を隠せない。間違いなくアスランの言葉のせいだろう、と自分でもわかっていた。
 それでも、みんなが認めてくれているから、自分は前に進める。
 アレックスが支えてくれるから、自分は戦える。
 他の誰かの言葉なんて堂でもいいだろう、と自分自身に言い聞かせた。
「……無事で」
 この言葉とともにキラはその場から離脱をする。
『キラも、無理はするな』
 優しい声が耳に届く。
「うん」
 それに背中を押されるように、キラはフリーダムのバーニアを全開にした。