彼等の元にオーブ軍と地球軍が再びザフトに向かって進撃を開始した。その情報がアークエンジェルにもたらされたのは、それからしばらくしてのことだった。 「……またか」 しかも、今回はもろにザフトの本拠地に向かっている。いくらユウナ・ロマが大馬鹿者でも、そんなことを諾々と受け入れるだろうか。 「目的地に、今現在、デュランダルが来ているそうだ」 間違いなく狙いはそれだろう、とアレックスは口にする。 「その情報はどこから、だ?」 信用していいのか、と言外に問いかければ、彼は笑う。 「ジャンク屋経由で来た情報だ。だから間違いないと思うが?」 だから心配はいらない、と付け加える彼にカガリは頷く。確かに、信用が一番重要な商品である彼等からの情報であるなら、間違いはないだろう。 何よりも、アレックスの古巣でもあるし……と心の中で付け加える。 「しかし、何故、今この時期にデュランダル議長は地球に来たんだろうね」 キラが小首をかしげながら、こう口にする。 「キラ?」 どうしてそんなことを言うのか。カガリはその意味を含めて彼に聞き返す。 「確かに、それは疑問ですわね」 しかし、ラクスはキラの言葉に頷いている。いや、彼女だけではなくアレックスも、そしてバルトフェルド達も何か違和感を感じているらしい。 「……だから、なんでだ?」 本当は、自分も気付かなければいけないのだろう。でも、どうしてもわからない。だから、とカガリは問いかけた。 「……現在、地球に彼でなければいけない仕事がないから、だ」 こう教えてくれたのはアレックスだ。 「前線で戦っている者達への激励じゃないのか?」 偉い人間が直接足を運び、声をかけてくれることで、士気が高まるものだろう……とカガリは言い返す。 「それもある意味正しい認識だ」 でもな、とアレックスは言い返してくる。 「プラントは、デュランダルの判断がなければ動かない。他の者達が自分の判断で行ったことも、最終的にはデュランダルの決済が必要なんだ」 逆に言えば、デュランダルがいなければ現在のプラントは大混乱に陥るだろう、と彼は続けた。 だからこそ、オーブ軍も地球軍も、主力の部隊と思える艦隊をそちらに向けているのだ。 「士気を高めるためだけならば、あのまがい物で十分だろう?」 吐き捨てるように付け加えたのは、彼がラクスの偽物を好ましいと思っていないからに決まっている。 それに関しては自分も同じだから反論はしない。 「……なら、どうしてデュランダルはあそこにいるんだ?」 カガリは思わずこう呟く。 「あいつでなければいけない《何か》があるんだろう」 でも、それが何であるのか……とバルトフェルドが眉を寄せる。 「……まさか……」 ぼそり、とアレックスが呟きを漏らす。 「アレックス、何か知っているの?」 キラが彼の顔をのぞき込みながら問いかけている。 彼が不安定だというアレックスの言葉をもう疑うものはいない。何と言えばいいのか。少しでも離れるのが怖いというように、キラは彼の側にいたがるのだ。 しかし、それ以外のことは正常と言っていい。 だからこそ、怖い……とカガリは思う。いや、他の者達もそう思っているからこそ、キラを追いつめないように、と気を付けているのではないか。 「……ザフトが新型を開発している、と言う話をファクトリーで小耳に挟んだだけだ」 だが、ロールアウトしている可能性はある。彼はキラにそう告げた。 「確認してみる必要はあるかもしれないな」 バルトフェルトがため息とともに言葉を口にする。 「状況によっては、俺は宇宙にあがる。こっちにはアレックスがいれば大丈夫だろう」 確かに、この人員であればそれが一番いいのではないか。少なくとも、アレックスをキラから離すわけにはいかないのだ。 「その時には、わたくしもご一緒させて頂いた方がよいかもしれませんわね」 ラクスがこう告げる。 「ラクス?」 「心配なさらないでください、キラ。あの方がわたくしを語っているのであれば、わたくしがわたくしだと主張していけないことはありませんでしょう?」 むしろ、自分だからこそ自由に動けるのだ、と彼女は微笑む。 「大丈夫ですわ。その時には万が一の時のために、アレックスからジャンク屋ギルドに協力を要請して頂きますし」 いざとなれば、傭兵の皆さんにも声をかけます。 「もう、決めたんだね」 キラが静かに問いかけの言葉を口にしている。しかし、その指が震えていることにカガリは気付いてしまった。そんな彼の指先を、当然のようにアレックスが包んでやっている。 「わたくしにしかできないことですから」 ついでに、アスランの背中を蹴飛ばして踏みつける下準備もしてこないと……と彼女は婉然と微笑む。 「ラクス?」 「あの分からず屋は、不本意ですがわたくしの婚約者のようですから。性格を矯正するのも婚約者としての義務でしょう」 もっとも、そのためにはキラ達にも協力をしてもらわなければいけないが。彼女はさらにこう付け加える。 「それは楽しそうだな」 アレックスが笑いながらこう言う。 「確かに。それなら、私も協力をするぞ」 アスランには言ってやりたいことがたくさんある。だが、あいつの自分ルールは堅固だから、何とか崩すための材料を集めておかないと、と頷いてみせる。 「ただ……今回のことが終わってからにしてくれ」 カガリはそう付け加えた。 「もちろんですわ、カガリ」 「今回の作戦が失敗をすれば、連中も少しは大人しいだろうからな」 それからでも間に合うだろう。バルトフェルドも頷いてみせる。 「……そうだね。きっと、何かが変わるよね」 そんな予感がする、とキラが呟く。それは何気ない呟きだったのかもしれない。しかし、カガリには重いものと感じられた。 |