アスランとアレックス。
 二人の存在を知ってから、レイの中ではある欲求が生まれてしまった。
 いったい、彼等は相手のことをどう思っているのだろうか。そして、周囲の者達は、と心の中で呟く。
 もっとも、アスランの方は確認しなくてもわかる。
「……そんなに、自分と同じ存在を否定したいのか」
 それとも、たんに《キラ・ヤマト》の隣を《もう一人の自分アレックス・ディノ》に奪われたからか。
「おそらく、後者だろうな」
 自分には恋愛感情というものはよくわからない。そして、わかりたいとも思えない。自分にとって大切な存在はデュランダル一人でいいのだ。
 だが、他の者達にとってそれは重要なものらしい。
 同時に、それがあるからこそ実力以上の力を出せる人間がいることも事実だ。だから、その感情を否定する気にはなれない。
「……ただ、俺に時間がないだけだ……」
 恋愛をするには、とレイは自嘲の笑みを浮かべる。
 だから、デュランダルの願いを叶える手伝いをすること以外の全てを切り捨てただけだ。
 それでも、シンに友情を感じているし、仲間達を心配することもある。
 ただ、デュランダルのためにはそれを切り捨てることが出来るだけだ。
「……もし、俺にもっと時間があれば……」
 彼等の気持ちもわかるようになるのだろうか。
 そう考えてみるものの、答えは見つからない。
「考えるだけ、無駄だな」
 それよりも先に考えなければいけないことがある。
「あの少女……シンを完全に取り込むために利用できるだろうか」
 自分がいなくなった後、デュランダルを守ってくれる存在が必要だ。それに、シンであればふさわしい、と思う。
「それと……取りあえず、アスランには協力をしておくべきだろうな」
 キラ・ヤマトの存在は自分たちにとってもプラスになる。
 彼の存在があれば、あの女ミーア・キャンベルがラクス・クラインであるということを誰も疑わなくなるだろう。
 何よりも、フリーダムのパイロットはその存在が今はもう神格化されていると言っていいのだ。彼が味方をするものがこの世界の覇者になる。そんな予感がレイにはあった。
 それに、と心の中で呟く。
 アレックスとアスランの邂逅の時の様子を知ってしまったからこそ、余計にキラと話をしてみたいと思う。
 いったい、何がそこまで彼を追いつめたのか。
 その理由の中に、ラウの死が関わっていて欲しい。その死を悼んでいるからこそ、彼は……と考えてしまうのは、自分がそうあって欲しいと願っているからか。
 どのような形にしろ、誰かの心の中に残っているラウはうらやましいと思う。
 自分もそんな存在になれるだろうか。
 そう心の中で呟いていた。

「キラの様子がおかしい」
 彼がマードックに呼ばれてデッキに行ったことを確認して、アレックスがこう切り出した。
「おかしい? どんな風に、だ?」
 即座に反応を返してきたのはカガリだ。もっとも、他のメンバーにしても口には出さないだけでキラを心配していることは間違いない。
「かなり不安定になっている」
 間違いなく、アスランのせいだろう。
「今はいいが……またあいつに会ったらどうなるか」
 正確に言えば、あいつがまた暴言をキラにぶつけたら、とアレックスは言外に付け加える。
「……確かに、あの様子では何かをしてくるだろうな」
 カガリも頷いてみせた。
「結局、あいつの脳内ワールドと現実が乖離しているから問題なんだよな」
 察しろと言われても自分たちは彼ではないのだから、説明されなければわかるはずがない。
 理解できたとしても受け入れられないことがあるだろう……と彼女は続ける。
「今、私たちがオーブに帰ればどうなるか。それは少し考えればわかるだろうに」
 クレタ沖でオーブ軍がどのような反応を見せたのか、アスランだって、それを目の当たりにしているだろうに……と彼女は怒りを隠さない。
「本当に困った方ですわね」
 昔から、自分の基準が全てだと思っているとは思っていたが……とラクスはラクスでため息をつく。
「だからといって、キラに『出撃するな』といっても、聞き入れるとは思えないしな」
 守ることが、キラにとってはアイデンティティになっている。だから、それを崩すわけにはいかない。
「……一番いいのは、戦場でもあいつと接触させないことだろうが……」
 はっきり言って、それは不可能ではないか。カガリはそう呟く。
「確かに、俺たちがフォローしようにも、限界がある」
 戦場ではなおさらだ、とバルトフェルドも頷いてみせた。
「そうなれば……最初から奴の意識を別に向けておく方が確実、と言うことか」
 アレックスはそう呟く。
「何をする気だ?」
「あいつが俺を恨んでいるなら、それを逆手に取ればいいだけでしょう」
 自分が戦場に出れば、間違いなくこちらを狙ってくる。そのまま相手をしていればいいだけだろう、とアレックスは笑う。
「いっそのこと、そのまま戦場から離脱して貰おうかと」
 だからといって、命を奪うわけにはいかない。そのあたりのさじ加減がむずかしいな、とアレックスは心の中で呟く。
「それしかないだろうな」
 カガリのことは自分が責任を持つ、とバルトフェルドも口にする。
「本当に……いい加減、現実を見て欲しいものですわね」
 今度会ったら、それこそ思い切りお小言を言わせてもらいましょう。ラクスのこの言葉が一番怖い、と思うのは自分だけではないだろう。いや、そう考えたいな……とアレックスは苦笑を浮かべてしまった。