カガリ達に追いつかれないように走って部屋に戻ったからだろうか。キラの頬がうっすらと上気している。
「……キラ……」
 その色にひかれるようにアレックスはそっと唇を寄せていく。
「アレックス……」
 それをキラも望んでくれているのか。そっとまぶたを閉じてくれた。
「……キラ……」
 静かに唇を重ねる。軽く触れあうだけのキスを繰り返すだけで、キラの目元は赤く染まっていく。
 そんな反応が嬉しい。
 心の中でそう呟きながら、アレックスはキラの唇を舌先でそっとノックした。そうすれば彼の唇は迎え入れるかのように開かれる。
 そのまま導かれるかのように舌を滑り込ませれば、キラのそれがアレックスを出迎えるようにおずおずと触れてきた。
「……んっ……」
 絡めてやれば、それだけでキラの唇からは甘い声が漏れる。
 その瞬間、ぞくりとしたものがアレックスの背中を駆け抜けた。それが《情欲》だと言うことは、よくわかっている。
「キラ……」
 ほんの僅かだけ唇を離すと、アレックスは彼の名を呼んだ。同時に彼の手はキラの衣服にかかる。
「……アレックス……」
 キラもまた、ためらいを見せながらもアレックスの服に手をかけてくる。しかし、アレックスの指がイタズラをするように彼の肌を刺激しているせいで、うまく脱がせられないらしい。
「キラ、ちゃんとして」
 そう囁きながら首筋にキスを落とす。
「……あっ……」
 びくん、とキラの体が震える。
「それとも、無理?」
 くすくすと笑いながら、アンダーに隠れるであろう場所に花びらを刻む。以前付けたそれはとっくの昔に消えている。だから、それ以上のものを付けてやらないと、と思うのだ。
「……だって、アレックスが……」
 刺激をしてくるから、とキラが訴えてくる。しかし、その声は既に情欲に濡れていた。それだけで、アレックスの中心に熱が集まる。
 このままじゃれ合っているのもいいが、早急にキラをむさぼりたいという気持ちもふくれあがってきた。そのふたつの選択肢からアレックスは後者を選んだ。
「あぁ、俺のせいだな」
 だから、責任を取る。
 この言葉とともにアレックスはキラの体を抱き上げた。
「アレックス?」
 不思議そうな表情で彼が見上げてくる。
「立ったままよりはベッドの方がいいだろう?」
 そんな彼に笑いながらこう囁いた。一瞬、キラは目を丸くする。しかし、すぐに小さく頷いてくれた。
「いいこだ、キラ」
 愛している。そう囁きながらキスを落とす。唇を会わせたまま、アレックスはベッドへと移動していった。

 レイから送信されてきた報告にデュランダルは楽しげに目を細めた。
「まさか、こういうことだったとはね」
 これならば、確かに遺伝子の差違がほんの僅かだけだったことも理解できる。
「そこまでして、自分たちの遺伝子を残したかったのか」
 同時に、その事実が疎ましく感じてならない。
 自分は誰よりも愛した相手との子を得ることが出来なかった。だから、彼女は自分から離れていってしまった。
 そして、友人も可愛がっている養い子も遺伝子が原因で、自分を置いていく。
 しかし、あの子供達は今後も幸せに生きていく。その不公平さはどこから生まれたものか。そう考えれば、彼等の両親のせいだという結論に達するのではないか。
「……君達が悪いわけではないのだがね」
 だが、両親が行ったことの償いは子供がすべきだろう。
 自分から多くのものを奪ったのだから、その分を自分に返してもらわなければいけない。
 だが、彼等は自分に協力をしてくれる可能性は少なそうだ。
 その理由に思い当たる節はもちろんある。自分にとってそれが必要だったのだが、彼等には受け入れがたいことだったようだ。
「それだけは、拙速だったね」
 先に彼等を取り込んでから行えばよかったのか。しかし、それではこちらの計画に支障が出る可能性がある。
 しかも、だ。
 今回のことでアスラン・ザラにもこちらに対する不審が生まれてきているらしい、とレイは伝えてきている。
「まぁ、彼に関しては、その感情を別な方向に向ければいいだけなのだが……」
 キラとアレックスに関してはどうするべきか。
 あっさりと切り捨てるには惜しすぎる。
 特にキラの方は、だ。
 その才能。何よりも、その遺伝子が宿しているであろう可能性。それを手に入れられれば自分の計画は盤石なものになる。
「さて、どうしたものかね」
 最悪、キラだけでも……と思う。
「アスラン君に頑張ってもらうか」
 必要なのは彼の存在カリスマ性
 その意志はどうでもいいのだ。
 この手に入れば、いくらでも方法はあるから。デュランダルはそう言って嗤う。その表情は、温厚と言われる最高評議会議長の面影はなかった。