その時になったら連絡をする。
 この言葉とともにアレックスとカガリは与えられた部屋へと押し込められた。
「……私は、何もできないな」
 ベッドに突っ伏しながらカガリはこう口にする。
「カガリ……」
 彼女がどれだけ無力感を味わっているのか、アレックスにも想像が付く。
 いくら彼女がオーブの代表だ、とはいえここはザフトの艦なのだ。彼女のワガママが通るような状況ではない。
「だが、お前はオーブの代表だ」
 我慢することも義務の一つだ、とアレックスは口にする。
「わかっている」
 憮然とした口調で彼女は言い返してきた。
「……だが、お前がここにいることがプラスに働くかもしれないぞ」
 取りあえず少しでも彼女の気分を浮上させるためにアレックスは次の言葉を口にする。
「アレックス?」
「ひょっとしたら、今回の事件はザフトが計画したことだ……と言い出す奴がいないとも限らない。だが、ザフトがユニウスセブンの破砕作業を行っているところをお前が見ていた、と言えばどうなる?」
 少なくとも、彼らが何もしなかった……という言葉は封じることができるだろう。少なくともオーブでは、だ。
 だからといって、人々の憎悪が完全に封じられるかと言えば話は別だ。
 多大な被害を受ける地球とは違って、プラントはほぼ無傷ですむ。そのギャップが怒りを産む可能性は否定できないだろう。
 それはしかたがないことだ。
 だが、とアレックスは心の中で呟く。
 それでキラが傷つくとなればまた話は別かもしれない。
「そうだな。私の立場だからこそ、できることがあるのか」
 それでももどかしいことは事実だ、とカガリはため息を吐いた。
「……お前自身ができなくても、俺ならできるかもしれないな」
 もっとも、開いているMSがあればの話だが……とため息とともに付け加える。
「アレックス?」
「破砕作業なら、以前にも経験したことがある。それに、MSなら操縦できるからな」
 人並み程度には、とアレックスは笑った。
「何を言っている。お前のテクニックはオーブでもトップクラスだ」
 あいつを守らせていいと思う程度には、と彼女は続ける。でなければ、自分を含めた者達が彼の側にお前を近づけるはずがないだろう、とも付け加えた。
 その言葉にアレックスは苦笑を返す。
「取りあえず、艦内は安全だと思う。破砕作業中にお前をどうこうしようと言うものがいるとは思えないからな」
 だから、とそのまま言葉を重ねた。
「その間、俺が側を離れても構わないか?」
 この問いかけの意図がわかったのだろう。カガリはベッドから体を起こす。
「アレックス?」
「取りあえず、グラディス艦長に頼んでみるつもりだ。もっとも、受け入れられるとは思わないが、な」
 それでも、何もしないよりはましだ。
「そうだな。そうしてくれれば、私も気が楽だ」
 もっとも、と彼女は少しだけ表情を曇らせる。
「キラがこの事を知れば……きっと悲しむだろうが……」
 それでも、状況が状況である以上、彼も納得をしてくれるだろう……と言い聞かせるように彼女は続けた。
「……でなければ、最後までしらを切り通すか、だ」
 カガリでは無理だろうな。そう思いながらもアレックスはそう言う。
「ラクスが協力してくれるのであれば可能だろうな」
 彼女の言葉であれば、キラはあまり疑わずに聞き入れるから……と言う言葉が思い切り気に入らない。
 それが真実だ、としてもだ。
「まぁ、多少悔しいが……私たちはいつでもキラの側にいられるわけではないから」
 しかも、彼の目の届かないところで危険なことをしているから、信頼度が低いんだよな……と彼女はさらに言葉を重ねる。
「……否定できないというのが一番悔しいな」
 やはり、キラの側にいるのは自分でありたかった。
 そうすれば、彼は自分を一番に考えてくれていたのだろうか。
 もっとも、そうすれば彼を守ることができなかったかもしれない。それもわかっている。
「ともかく、話をしに行ってくる」
 カガリは休んでいてくれ。そう付け加えながらアレックスは立ち上がった。
「気を付けろよ?」
 それから、無理をするな……と彼女は即座に言葉をかけてくる。
「わかっている。キラを悲しませるようなことはしない」
 自分たちにとって、それは一番根本にある思いだ。
 だから心配はいらない。
 この言葉とともにアレックスは歩き出した。