荷物を整理する間もなく――と言っても私物はほとんどなかったが――アレックスはブリッジへと連行されてしまった。
「で?」
 プラントはどうだった? とバルトフェルドが問いかけてくる。
「あまりいい状況だ、とは思えませんね」
 即座にアレックスは言い返す。
「表面上は何と言うことはありませんが……デュランダルに対する人々の盲信ぶりは、俺には異常だとしか言えませんよ」
 しかも、完全に情報がコントロールされている、とアレックスは顔をしかめる。
「……あの地では、プラントに都合の悪い話はあまり、民衆には知られていません」
 彼等の話であれば、ザフトでも中枢から離れた者達にはほとんど情報が渡されていないという。民衆と大差ない、と言うのが現状だ。
「それは……ものすごく厄介だな」
 正しい情報を全て与えられているのであれば、ある程度の判断を自分ですることが出来る。しかし、情報が制限されていれば、どうしてもそれを伝えてくれるものの言葉に左右されやすくなるのだ。
「しかも、結構影であれこれやっているようです」
 カナーバが行った政策を覆すような……とも告げれば、ますます彼等の顔は険しくなっていく。
「たとえば?」
 カガリが問いかけてくる。
「プラントに保護されていたエドワード・ハレルソン及び彼を手引きしたジャーナリストのベルナデット・ルルーのプラント追放、及び抹殺計画……とかか?」
 他にもあれこれあるが、それは全て予測済みの事態だ……とアレックスは淡々とした口調で告げた。
「……アレックス……」
 不安そうにキラが呼びかけてくる。
 顔も見たことがない相手でも、その命を心配するのがキラだ。
 側にいたというのであれば、どうしてそれに気が付かないのか。本の些細なことでもアスランへの怒りにすり替わってしまう自分に、アレックスは心の中で自嘲の笑みを浮かべる。
「大丈夫だ。彼等はサーベントテールが保護をした」
 今は安全な場所にいる、とそれでもキラに向かって微笑んでみせた。
「ロンド・ミナ・サハクの依頼だそうだ」
 二人ともそこでしばらく休息を取ってから、それぞれの選択肢に従って行動するらしい。そう聞いた、とアレックスは説明をする。それだけで、キラはほっとしたような表情を作った。
「ミナさま、か」
 あの方であれば、そのくらいするだろうな……とカガリは頷く。
「私にも、あの方ぐらいの強さがあれば、状況は変わっていたのか?」
 これは独白だろうか。だが、間違いなく彼女の本音なのだと推測できる。
「それを言ってもしかたがありませんわ」
 彼女の肩にそっと手を置きながら、ラクスが静かに口を開く。
「誰であろうと、自分は自分以外になれないのです。それを無理に押し通そうとすれば、必ずひずみが出てきますわ」
 それがわかっているのだろうか、彼女は……と少しだけラクスは眉を寄せる。
「……あの称賛を自分に向けられたものだ、と思いこんでいれば、最後の最後まで気付かないでしょうね」
 直接その目であの《ラクス・クライン》を見てきたからか。今までの経験からなのか。ミリアリアは辛辣な口調でこう言ってきた。
「そうだな。全ては本人の選択次第だ」
 その結果、どのような結末が待っていようとそれは本人が選んだことだ……とアレックスは頷いてみせる。
「……悲しいですが、そうですわね」
 自分で選択をした以上、責任は取らなければいけない。だからこそ、自分たちは慎重に判断をしなければいけないのだ。ラクスは淡々とした口調でそう告げる。
「……それは、わかっているけど……」
「ともかく、だ。デュランダルの目的がわからなければ、俺たちとしても動きようがない。それだけは事実だからな」
 地球軍の方がシンプルでわかりやすい。バルトフェルドがキラの思考を遮るかのように口を挟んできた。
「それについては、ジャンク屋と情報屋が調べて連絡をくれることになっている」
 連中も、流石にザフトの動きに違和感を感じているらしいからな、とアレックスは付け加える。
「そうか……それまでは大人しくしているか」
「……その方がいいだろうな」
 カガリも取りあえず頷いた。しかし、どこか渋々だ。
「心配するな。オーブ軍が動いたらその時はまた俺たちも動けばいい」
 それまで、キラに再会を喜ぶ時間を与えてやれ。そう付け加えられて、カガリは納得したという表情を作った。それに対し、キラは真っ赤になる。
「と言うことで、そろそろいいよな?」
 アレックスは笑いながらこう言う。
「アレックス!」
 次の瞬間、キラの叫び声と他の者達の笑い声がブリッジ内に響き渡った。

 アスランが調べていたデーターの内容は、全てレイの元へと転送されていた。
 もちろん、それを本人は知らないだろう。デュランダルがそうするように内密に指示をしていたのだ。
「……パトリック・ザラの日記?」
 しかも、隠しファイルが付いている。それをアスラン・ザラは知っているのだろうか。それとも、と悩む。
「取りあえず、中身を確認しないとな」
 それからデュランダルに報告をしないと。
 そう考えて、レイは反射的にそのデーターを保存する。
「……ただいま……」
 まるでそのタイミングを待っていたかのようにシンが戻ってきた。データーの保存が終了したのを確認して、レイは即座にその痕跡をモニター上から隠す。
「疲れているようだな」
「……ってわけじゃないけど……インパルスの調整に手間取って、さ」
 何か、時々反応が鈍いような気がするんだ。そう彼は付け加えた。。
「そうか」
 彼の戦闘能力が上がれば、それはデュランダルのためになる。それがわかっていても、どこか面白くないと思ってしまう。それは、自分がそうできないからだろうか。
「ならば、後でシミュレーションに付き合おうか?」
「……明日、な」
 今日は寝る、と口にする彼に、レイは頷き返す。そのままシャワーブースへと足を進めていく彼の姿を、レイは羨ましさと妬ましさが入り交じった視線で追いかけていた。