このままではミリアリアも危ない。そう判断をして、アレックスは彼女を自分がファクトリーから受け取ってきた機体でアークエンジェルまで運ぶことにした。
「……ジャスティス?」
 それを目にした瞬間、彼女だけではなくキラ達も驚いたように目を丸くしている。
「の後継機だ」
 フリーダムの後継機よりも先に、こちらがロールアウトしていた。だから、さっさと預かってきただけだ、とアレックスは笑う。
「これで、キラにだけ戦わせずにすむ」
 そちらの方が自分には重要だ。心の中でそう付け加える。
「確かに。お前がいてくれると安心感が違うな」
 カガリもそう言って笑う。
 それは、現在、アークエンジェルにいるパイロットがキラとカガリ、そしてバルトフェルドの三人だけだろう。
 その中で一番戦闘力が低いのは――本人は認めたくないかもしれないが――カガリだ。バルトフェルドがそんな彼女のフォローに回ることは目に見えている。
 結果的にキラに負担がかかるのは自明の理だろう。
 ともかく、とアレックスは心の中で呟くと視線をキラ達に向けた。
「取りあえず、二人は先に戻っていろ。俺はミリアリアと共に彼女の私物を取りに行ってから追いかける」
 その方がこちらも安心して動ける、とアレックスは付け加える。
「アレックス、でも……」
「大丈夫よ。ちゃんと見張っているから。浮気なんてしないように」
 不安を隠せないという様子のキラに、ミリアリアがからかうようにこういった。
「ミリィ!」
 それは、間違いなくこの場の雰囲気を変えるためだろう。あるいは《アスラン・ザラ》のことからキラの意識をそらそうとしたのではないか。そんなことも考える。
「それに、カガリさんを先に連れて行かないと……」
 万が一、ザフトに拉致されるようなことになれば後が大変だ……と彼女は言外ににおわせる。キラにはそちらの方が有効だとわかっているのだろう。
「それに、その様子だと、キラが帰らないとカガリさんが帰らないわ」
 さらにカガリもキラの腕を掴むという行為でその言葉に賛同している。
 他の人間ならば無条件で殴りつけたくなるようなそれらの行為も、キラの周囲にいる女性陣であれば受け入れられる。それはきっと、彼女たちがキラに恋愛感情を抱いていないとわかっているからだろう。そんな自分の現金さにアレックスは苦笑を浮かべる。
「お前達の存在がアークエンジェルを支えている。だから、大人しく今は先に戻っていろ」
 言葉を口にしながらアレックスはキラの側に歩み寄る。
「戻ったら、ちゃんとしてやるから」
 性的なものを滲ませて、彼の耳元でこう囁いた。
「アレックス!」
 その瞬間、キラは頬を真っ赤に染める。それが可愛いと思うのは惚れた人間だから、と言うわけではないだろう。
「アレックス……」
 そんなキラの隣ではカガリがあきれたような視線を向けてくる。
「いいだろう。好きではなれていたわけではないんだし」
 恋人同士なら当然のことだろう、と笑い返す。
「……勝手に言ってろ」
 あきれたようにカガリはため息をつきながらこういった。
「付き合い切れん。キラ、帰るぞ!」
 そいつは勝手に追いかけて来させろ、と彼女は続ける。
「カガリ」
「大丈夫だ。ミリアリアが見張っていてくれるからな」
 アレックス一人であれば何をするかわからないが、ミリアリアが一緒であれば無茶をすることはない。だから大丈夫だ、と言う言葉は否定できない。
「大丈夫。ミリアリアにケガはさせない」
 自分もする気はない、とアレックスは笑ってみせる。
「……うん……」
 でも、すぐに追いかけてきて欲しい……とキラの瞳が告げていた。
 逆に言えば、それだけキラの心が不安定になっているのだろう。それは間違いなくアスランの不用意な言葉のせいだ。
 キラを大切だといいながら、彼を傷つけることしかしない男。
 今回だって自分勝手な理屈でキラを糾弾してくれた。
 どうしてキラがそうしなければいけなかったのか。原因を作ったのが誰なのかを完全に棚に上げてのセリフではないか。そう考えれば、怒りしかわいてこない。
 できれば、今すぐインフィニットジャスティスでザフトの基地を襲撃しに行きたいくらいだ。
 しかし、それではキラの元に無事に帰れるかわからない。何よりも、ミリアリアを危険にさらしてしまう。
 友人や家族を失ってきたキラから、これ以上誰も奪うわけにはいかない。
 それは自分の感情よりも優先されるものだ。だから、出来るだけ優しい笑みを彼に向ける。
「ミリアリアの用事が済み次第、すぐに追いかける。その後は、追い出されない限り側にいるから、安心しろ」
「誰が追い出すと言うんだ!」
 アレックスの言葉にカガリがこう叫ぶ。
「……仕事を押しつけてくれそうな人間は山ほどいるだろう?」
 お前を筆頭に、と付け加えれば彼女は言葉に詰まっている。
「お望みなら、いくらでもそうしてやる」
 覚えていろ! と付け加えるとカガリはキラを引きずるようにして歩き出した。
「……からかいすぎたか?」
 その後ろ姿を見送りながら、アレックスは低い笑いを漏らす。
「少なくとも、キラのフォローはきちんとした方がいいと思うわよ」
 あの様子だ、とカガリだけではなくラクスも何を言い出すかわからないから。ミリアリアがこう言ってくる。
「わかっている」
 それでも、キラの側にいられることのほうが重要だ。アレックスはそう判断をして歩き出す。
「その前に、これからのことをしっかりと話し合わないとね」
「そちらの方が重要だな」
 アスランがどう出てくるかわからない。そして、デュランダルも、だ。
 それでも、自分が側にいればいくらでもキラを守ることができる。
 一人で戦わせることがないだけでもましだ。そう自分に言い聞かせていた。