自分の姿を見て、キラの顔から血の気が失せていく。 それだけ、自分がザフトにいたことがショックだったのだろうか。 「……なら、オーブから出てこなければよかったんだ……」 少なくとも、オーブ本土にいればこうして戦場で出逢うことはなかっただろうに。アスランはそう思う。 でなければ、あの後、自分を追いかけてプラントに来ればよかったのだ。 確かに、自分もあまり表立って動ける立場ではなかった。それでも、キラ一人であれば守れる。そう思っていた。 本当は、彼等から離れるときにキラを連れて行こうと思っていたのだ。 しかし、彼の体調がそれを許してはくれなかった。 何よりも、彼がカリダ達と一緒にいたいと希望していたのだ。彼にとって家族がどれだけ大切な存在かを、アスランはよくわかっていた。 自分だって、レノアが生きていればザフトに入隊しようなんて考えなかっただろう。そうしていたら、自分は彼と戦わずにすんだのだろうか。 あの時と同じ間違いをしたくない。 だから……と思いながら、ゆっくりと地面に足の裏を付ける。 「……アスラン……」 その瞬間、キラの細い声が耳に届いた。 「キラ……」 しかし、彼にこれだけ衝撃を与えてしまったのは失敗だったかもしれない。 また、彼が体調を崩しては意味がないのだ。 そんなことを考えながら、ゆっくりと彼等の方に足を進めようとする。 だが、キラの前にたどり着く前にカガリが間に割り込んできた。 「それで? 今更、何の用なんだ」 挑むようににらみつけてくるのは、彼女が最後まで自分の判断に異論を挟んでいたからだろう。 「お前は、私たちを見捨てたんだろう?」 それほど自分たちが鬱陶しかったのか? と彼女は遠慮することなく言葉を投げつけてくる。 「誰が誰を『見捨てた』だと?」 考えてもいなかった言葉を投げつけられてアスランはカガリに怒りを滲ませた視線を向けた。自分は彼らを守りたいからこそ、彼等から離れる道を選択したのに。 「違うのか?」 カガリは即座にこう言い返してくる。 「せめて、キラの体調が落ち着いてからならばまだしも、一番酷いときに出て行ったのはお前だろうが」 それを「見捨てた」と言わずして、何をそう言うのか。彼女はさらに言葉を重ねてきた。 「だが、あの時俺が離れなければ……お前達が危険だったんだ……」 ザラ派の人間が自分に接触をしてきていたから、とアスランは言い返す。 「……お前は、それほど私たちを信用していなかったんだな」 だが、それに対してカガリの口から出たのはそんな言葉だ。 「確かに、私には力がなかったかもしれない。それでも、キラやお前達を守ることはできたぞ」 マルキオやバルトフェルド達の力を借りてだが、と口にした瞬間、彼女は少しだけ悔しそうな表情になった。どうやら、彼女には彼女なりに悩みはあったらしい。 ならば、だ。 「なら、今どうしてこのような状況になっている?」 どうしてオーブが地球軍と共にザフトに攻撃をしているのか。そう問いかければカガリは悔しげに唇を噛む。 「……カガリにだって、カガリなりの考えも苦労あります」 そんなカガリをフォローしようとしてか、キラが口を開く。 しかし、そのどこか他人行儀な口調にアスランは余計に苛立ちを感じてしまう。 「それであれか? 戦場を混乱させただけだろうが、お前達の行為は!」 とその気持ちのまま言葉を口にする。 「……僕は、誰にももう傷ついて欲しくないだけ……」 だから、同じような場面に出会ったら、同じような行動を取ると思う。キラは淡い笑みと共にこう告げた。 「きれい事を言うな!」 キラがそういう性格だ、と言うことはわかっている。 「お前の手だって、既に汚れているんだぞ!」 どれだけの命をその手で奪って来たと思っているのか。 アスランはさらに言葉を重ねようとしたときだ。 「アスラン!」 カガリが悲鳴のような声で彼の名を呼んだ。 それだけであれば、無視することも出来ただろう。 「……そこまでにしておけ、アスラン・ザラ」 だが、その場に自分によく似た――だが、自分のものではない――声が響いてはそうもいっていられない。 「アレックス……」 その声の主に向かって、キラがほっとしたよな表情で呼びかけている。安堵したせいか、彼は今にも泣き出しそうに顔をゆがめた。 そんなキラの視線の先にいる相手の顔を見つめて、アスランは信じられない思いでいっぱいだった。 瞳の色が微妙に異なっていることを覗いて、その相手は自分にそっくりだったのだ。 「……ミリアリア」 その相手が、側に立っていた女性に呼びかける。 「何かしら、アレックス」 「悪いが、キラを連れて離れていてくれ」 あちらにココアがある。キラを落ち着かせてくれ、と彼は当然のように口にした。 「わかったわ。あなた達の話が終わるまで、キラと向こうにいればいいのね」 それにミリアリアも何でもないことのように言葉を返している。と言うよりも、彼等の間には自分に対してのような壁が存在していないのだ。 「でも、アレックス」 「大丈夫だ。そもそも、カガリの護衛が俺の役目だしな」 そいつと話をしておかなければいけないこともある。そう言って、アレックスと呼ばれた男はアスランを真っ直ぐに見つめてきた。 「お前も、俺に言いたいことがあるだろう?」 それはどうして自分たちがそこまでいているのか、もう含めてのことか。 「そうだな」 確かに、それを聞かなければいけない。そして、キラのどこか違和感を感じる言動についても、だ。 そう判断をして、アスランは頷いてみせた。 |