キラ達の元にミリアリアからの連絡が来たのは翌日のことだった。
「……アスラン、が?」
 カガリは思いきり顔をしかめながら言葉をはき出す。
「今更、何なんだ?」
 自分たちから離れていったのは彼の方ではないか。それなのに、と思う。
「……会いたいって言っているの? 僕に?」
 キラもまた、意味がわからないというように首をかしげている。
「どうなさいますか?」
 ラクスが静かに問いかけてきた。全てはキラの判断にお任せします、とも彼女は続ける。
「……ミリィからのメールだったんだよね?」
 そもそも、そちらの方が重要だ。
「えぇ。ちゃんとキラがミリィさんに渡したソフトからの発信でしたわ」
 自分たちも真っ先にそれは確認した。そして、間違いなかったからこそこうして話をしているのだ、とラクスは言葉を返す。そのまま彼女は視線をノイマンへと流す。
「それに関しては、俺も保証をする」
 彼もそういうのであれば間違いはないのだろう。
「つまり……ミリィは僕を彼にあわせたいと思っているってことかな?」
 それとも、何か他の意図があるのだろうか。キラは首をかしげながらこう呟く。
「あるいは、あっちの方の関係かもな」
 わざわざ彼女に伝言を頼んだ、とカガリがあきれたように口にする。
「本当に今更だよな」
 その言葉に、微かにとはいえ怒りが滲んでいるような気がするのは、キラの錯覚だろうか。
「……ともかく、ミリィには会いたいから行ってくるよ」
 あくまでもアスランと会うのはついでだ、とキラは告げる。
「そうだな。ミリアリアには私も会いたい」
 だから付いていくぞ、とカガリが宣言をした。
「カガリ!」
 それは危険だ。キラはそう言い返そうとする。少なくとも、自分よりも彼女の方が顔を知られているのだ。だから、誰かに見られたらどうするのか。
「……残念だが、白兵戦ではお前よりも私の方が強いぞ」
 少なくとも、自分は《人間》を撃てるからな……と彼女は反論をしてくる。
「確かにな。」
 今回はカガリに同意だ、と黙って聞いていたバルトフェルドまでが口を挟んできた。
「バルトフェルドさん!」
「諦めて、今回はカガリに付いていってもらえ」
 その方が安全だ、と彼は言いきる。
「ですが!」
「いいから。本当は俺が一緒に行ければいいんだが……俺の顔は知られている可能性が高いからな」
 だから、二人で行ってこい……と彼は続けた。
「わたくしもその方がよろしいと思いますわ」
 さらにラクスにまで言われてしまっては受け入れるしかないのではないか。
「……どうせ僕は……」
 生身では戦力外だよ、とぼやくだけがキラに出来る唯一のことだった。

「……すねてしまいましたわね、キラ」
 付け焼き刃だが、護身術を教えてやるよ……と言われてキラがバルトフェルトに引きずられていくのを見送りながら、ラクスが笑いを漏らす。
「まぁ、いいんじゃないか」
 身につけておいてそんはないだろう、とカガリは言い返した。と言うよりも、今までやろうとしなかった方が問題ではないか。
「しかし、このタイミングであいつから連絡があるとは思わなかったな」
 キラがいなくなったから、遠慮はいらない。その思いのまま、カガリは吐き捨てる。
「そうですわね。わたくしたちはもちろん、バルトフェルド隊長ですらその居場所を見つけられなかったのに」
 それ以前に、自分たちを切り捨てるような行動を取った彼が何故、とラクスも頷く。
「一番心配なのはキラだ」
 ようやく落ち着いたのに、とカガリは口にする。
「せめて、あいつが側にいるときであればフォローもしてもらえたんだろうが……」
 今はどこにいるかもわからない。居場所さえわかれば、すぐに呼び出してやるのに、とそうも続けた。
「だから、貴方が一緒に行くのでしょう?」
 大丈夫だ、とラクスは微笑む。
「それに、ミリアリアさんも一緒ですもの。大丈夫ですわ」
 だから、アスランの真意を確かめてきて欲しい。その結果、自分がどうするのかを決めなければいけないから。ラクスはきっぱりとした口調でそう言いきる。
「アスラン・ザラがラクス・クラインの婚約者だというのはプラントでは当然の事でした。だからこそ、彼の言動がこれからのことを大きく左右するはずです」
 アスランがあちらにいることであの《ラクス・クライン》が本物だと周囲に認識される可能性すらあるだろう。
 ラクスはそう告げる。
「それもわからないのか」
「あるいは、わかっていて協力しているのかもしれません」
 だからこそ、あの時自分たちから離れていったのではないか。ラクスはそう付け加える。
「それを確認するのは私の役目だな」
 キラにはさせられない、とカガリは呟く。
 それについては別に苦ではない。むしろ、キラの精神を不用意に揺さぶらないためには必要なことだ。
「問題は……あっちの方だ」
 彼であれば、今のキラの様子がどこかおかしいときが付くに決まっている。その時に、彼が不用意なセリフを投げつければどうなるか。
「まぁ、その前に……殴ってでも止めるがな」
 彼が自分を守ってくれているように自分が彼を守るのだ。カガリのこの言葉に、ラクスもまた頷いてみせた。