まさかこの戦場にどちらの陣営にも属さない者達が乱入してくるとは、誰も予想していなかった。 『私は、オーブ代表首長、カガリ・ユラ・アスハ!』 しかも、その中の一機――あれがストライク・ルージュなのだと言うことを知らない者はほとんどいないはずだ――からオーブン回線でこう宣言されるとは、だ。 その事実にオーブ軍が混乱している。 「……でも、何故……」 今、彼等がここに姿を現したのか。 これがストライク・ルージュだけならば、まだ《偽物》と言えたかもしれない。 しかし、あの機体が側にいる以上、あれは間違いなく本物だ。彼が彼女以外の《誰か》のために戦場に現れるなんてあり得ない。 「何故、お前がここにいるんだ、キラ!」 自分たちの行為が、どれだけ戦場を混乱させるのか、わかっているのか! とコクピットの中で叫ぶ。 確かに、キラの実力であれば誰も殺さずにこの場を終わらせることが出来るかもしれない――そう、全ての機体を動作不能にして、だ。 しかし、それではいけない。 それではいたずらに世界を混乱の渦に巻き込むだけだ。 その事実をお前が一番よく知っているのではないか。 「……カガリ達を連れて逃げた、と聞いて……安心していたのに」 少なくとも、彼女たちが一緒であれば彼は無理をしないだろう。 何よりも、守るものが存在している以上、彼が戦場に出てくるはずがない。そう信じていたのだ。 それなのに、どうして……と唇を噛む。 「……お前のせいか?」 視線をストライク・ルージュに向けるとこう吐き捨てる。 「お前が、キラをまた戦場に連れだしたのか?」 彼女の元であればキラは安全だと思っていたのに。 それなのに、どうして、傷ついた彼をまた戦場に引きずり出すようなことをしたのか。 オーブ軍がここにいるからだ、と言うことはカガリの言葉を聞いていればわかる。しかし、それを選択したのは《オーブ》ではないのか。 すなわち、カガリ自身だ。 「お前は、どうして……」 オーブで大人しくしていなかったのか。 そうすれば、少なくともオーブ軍が地球軍と共にザフトを攻撃をしている、という状況は生まれなかったのではないか、と思う。 もっとも、自分はどうして彼女たちがオーブから逃げたのか。その時の状況も含めて知らない。 それでも、と思う。 「どうして、その道を選ぶんだ!」 彼らを守りたい。そう思ったからこそ、自分は彼等から離れたのに。どうして、それなのに、と考えれば怒りがわいてくる。 その怒りをどこにぶつければいいのか。 よくわからなかった。 『そいつは、偽物だ!』 ユウナのこのセリフはある意味予想していた。しかし、その命令に従ってオーブ軍が自分たちを攻撃してくるとは思っても見なかった。 しかも、だ。 彼等は自分が本物だとわかっていたらしい。 『軍人である以上、命令は絶対です……』 上官が言えば黒いものでも白くなるのだ、と自分に攻撃を仕掛けてきたムラサメのパイロットが叫んでいた。その声は苦渋の色で染め上げられていたことに、来上がりは気付いていた。 「私は……」 間違えたのか、と思わずこう呟いてしまう。 自分の選択のせいでキラ達を危険にさらした。それだけではなく、多くの軍人達を死なせてしまったのではないか。 考えれば考えるほどわからなくなる。 「カガリ」 そんな彼女の耳にラクスの声が届いた。 「ラクス?」 「キラに言われましたの。きっとカガリが落ちこんでいるから、様子を見てきて欲しいと」 キラの予感は当たっていましたわね……と笑いながら、彼女はカガリの隣に腰を下ろす。そのまま、あの他人を包み込むような笑みを向けてきた。 「貴方は貴方の理念に従って正しい選択をしました。しかし、軍の方には軍の方なりの考え方があります。お互いに、それを譲ることが出来なかったからぶつかった、と言うことですわ」 だが、それでも自分で選択した以上、貫き通すしかない。 それが出来ないのであれば、最初から何もせずに黙って座っているべきだ。 優しい口調でありながらも毅然とした口調で彼女は告げる。 「……わかっている……」 自分が選んだことだと言うことは……とカガリは呟くように口にした。 「ただ……ショックだったんだ……」 軍人達は無条件で自分の味方だと思っていたから、とさらにこう続ける。 「わかっていますわ、カガリ」 でも、とラクスは微笑む。 「だからこそ、貴方が揺らいではいけません。そうすることで、みなが不安になります」 上に立つ者は決して不安を他人に見せてはいけないのだ。そう言われても、とか狩りは唇を噛む。 「もちろん、それは不可能ですわ。ですから、キラやわたくしたちが貴方の側にいるのです」 自分たちの前では、そんな風に肩肘を張らなくていいのだ。そう言いながら、そっとラクスはカガリの頬に触れてくる。 「……すまない」 そんな彼女たちの気持ちがとても嬉しい。 「今だけだから……」 思わずこう付け加えれば、ラクスは微笑みのまま頷いてくれた。 |