キラ達が早急に取り組まなければいけないのは、システムの調整だった。 フリーダムもアークエンジェルも修理は行っていたものの、その後は時折マードック達が整備をする程度で放置をされていたのだ。もちろん、モルゲンレーテのシステムが信用できないというわけではない。 「エリカ主任は信頼しても構わないと思うんですが……」 「他の連中は、な。軍にもあいつらへの協力者がいたんだから、モルゲンレーテにもいると考えて当然だでしょう」 実際、モルゲンレーテに来たカガリの姿を見た瞬間、さりげなく離れていく人影を見たことがあるからな……とマードックも頷いてみせる。 「……それ以上に、今、アークエンジェルに積まれているのはオーブ軍の基本システムですよね」 モニターにソースを表示させながらキラは呟く。 「何か仕込まれていると?」 バルトフェルドがこう問いかけてきた。 「可能性は否定できません。アレックスも、それを心配していたし……」 だから、こうしてソースまで確認しようかと思ったのだ……とキラは続ける。 「アレックスがそう言ったなら……確認しておくべきだろうな」 苦虫を噛み潰したような表情を作りながら、バルトフェルドははき出すように言葉を口にした。 「あいつの経験は、俺に勝るとも劣らないからな」 その言葉に、マードックも頷いてみせる。 「最初あった甘さもなくなりましたからな」 だから、あれこれ任せても大丈夫だと思えるのだが……と彼は続けた。逆に言えば、自分やカガリは彼等からすればまだまだだ、と言うことになるのだろうか。 少なくとも、自分のことに関しては否定できないかもしれない。 そんなことを考えていた時だ。ソースのある記述がキラの視界に飛び込んできた。 「キラ?」 スクロールを止めたキラに二人が即座に反応を返してくる。 「……ありました……」 スパイツールの一種だ、とキラは顔をしかめた。 「ライブラリやメールサーバーを外部から確認することが出来ます」 だが、これだけではないのではないか。 取りあえず、ソースのその部分にコメントとして目印を付けると、キラはさらに他の部分も確認していく。 「……もっと厄介なのがありそうだな……」 バルトフェルドも顔をしかめている。 「でしょうね……」 しかし、どうしてこのようなものを設置しているのか。それがわからない。 これがあるだけで、微妙とはいえシステムが重くなるのはわかりきっている。平時であれば気にならないかもしれないが、戦闘が激しくなればどうなることか。 最悪の状況だって考えられるのに、とキラは眉を寄せる。 「カガリは、誰であろうと道具扱いしないのに……」 同じ五氏族家の一員でありながらセイランは違うのだろうか。 思わず、こう呟いてしまう。 「そう考える連中の多くは、自分で戦場に出たことがない。だが、カガリは違う」 彼女は、自分のその目であの戦いを見つめてきた。 それだけではなく、その身を砲火にさらして、それでも生き抜いてきたのだ。 「その差は大きいと思うぞ」 バルトフェルドはそっと少し目を細めると言葉を口にする。 「それはお前達も同じだろう、キラ」 だからこそ、軍人達の多くは今でもキラをカガリと同列に扱っているのではないか。彼かさらにこう続ける。 「モルゲンレーテでもそうですぜ。おかげで、俺たちは割と気楽に過ごせましたからな」 少なくとも、面と向かってあれこれ言われたことはない。そして、そういうものがいてもすぐにフォローしてもらえた。 マードックもこう言って頷いてみせる。 「ただ、それでもあちらの味方がいると言うことか」 あるいは、それだけ騒がれるから逆に気に入らない、と思っている人間がいつかもしれないな……とバルトフェルドはあきれたようにはき出した。 「……バルトフェルド隊長……」 ひょっとして、自分はオーブにいない方がよかったのだろうか。 キラは不意にそんな不安に襲われる。 「そんな表情をするな。どこにでもそういうバカはいると言うことだ」 それよりも、さっさと確認をして修正をしよう、と彼は続けた。 「……ここの場所がばれている、と思っているんですかい?」 「これにはキラが作ったセキュリティも載せているんだろう? だからそちらは心配していないが、俺としては気持ちが悪いんだよ」 その気持ちはキラにもわかる。 「そうですね。他のシステムとぶつかる可能性もありますし……早々に確認して削除してしまいましょう」 もっとも、二、三日かかるが……と付け加えた。 「あぁ、あまり無理しなくていい。いざとなれば、さっさと逃げればいいだけだからな」 それもあって、自分たちは海中に潜んでいるんだしな、とバルトフェルドは笑う。 「……と言うことで、マードック」 「わかってますって。坊主の監視は得意ですから」 その言葉は何なのか。そう言い返したいが不可能だ、と言うこともわかっている。 「……取りあえず、作業を始めますから……」 静かにしていて欲しい。キラはそう告げる。 「飯の時間になったら呼びに来るからな」 それに対するバルトフェルドの答えはこれだ。それに、苦笑だけを返した。 |