固く閉じられたドアを、カガリは遠慮なく蹴飛ばす。
 もちろん、それでドアが開くとは思っていない。それでも、今の気持ちをどこかにぶつけないとやっていられないのだ。
「何で、私があれと結婚をしなければいけないんだ!」
 それが国にとって必要ならば考えてやらなくもない。しかし、自分はそう思えないのだ。
「ただ、オーブを大西洋連合に高く売りつけたいだけだろうが!」
 そして、自分たちが実権を握りたいだけだろうが……とカガリは吐き捨てる。
「一割とはいえ、国民を見捨ててどうするつもりだ?」
 それとも、モルゲンレーテの人間にだけ『特別』に居住許可を与えるつもりか。
 だが、とカガリは盛大に顔をしかめる。
 彼等にだってプライドは存在していることを忘れてはいないだろうか。そんなことをすれば、たとえ引き留められようとオーブを出て行くに決まっているだろう。
 自分自身の意志で出て行く彼等を、いったいどうやって止めようと言うのか。
「……取りあえず、連中が式までは、少なくとも私に危害を加えるつもりがないことだけが、今はプラス材料か?」
 本当に些細なことだが、とカガリはため息を吐く。
「いい加減、キラ達も心配しているだろうな」
 プラントに行っている等の理由以外で自分が音信不通になったことはないのだ。それでなくても、マーナあたりが心配して連絡を入れている可能性はある。
 だとするならば、彼等は自分を探してくれているのではないか。
「いくらなんでも、あの報道を信用するはずがないからな」
 自分が望んであいつの元に嫁に行くとは信じるはずがない。そう思いたいのだ。
「きっと……何とかしてくれる、と思うが……」
 問題なのは、自分も今自分自身がどこにいるのかわからないと言うことではないか。
 ひょっとしたら、記録すらされていない可能性がある。
 そうなれば、いくらキラでも調べることはむずかしい。
「……一番、居場所が確実につかめるのは、結婚式の時か」
 首長家の婚姻は、ハウメアの神殿で行うことになっている。それはどのようなときでも変わらない。
 特に、自分と――ものすごく不本意だが――ユウナであればなおさらだ。そして、セイランはそれを変えようとはしないだろう。
「チャンスは、その時だけ、だろうな……」
 自分と接触できるとすれば、とカガリは眉を寄せる。
 もちろん、それは連中も同じように考えているはず。
 警備が厳しくなることは目に見えている。それでもきら達であれば何とかしてくれるのではないか。
「……キラが私を見捨てるはずがないからな」
 しかも、できれば派手な方がいい。
 そうすれば、いくら連中でも言い逃れできないだろう。
「そのあたりは、ラクスに任せておけばいいか」
 彼女であれば、きっと効果的な方法を考えてくれるのではないか。そんな風にも考える。
 その時のあいつらの表情を考えて、少しでも鬱憤を晴らしておくか。
 逆に言えば、それしかできないことが悔しい。
 カガリはそう考えていた。

「……狙うとしたら、結婚式だろうな」
 バルトフェルドが集めていた情報を整理しながらこう言った。
「それも、パレードを終えて神殿に行くまでの間がいいだろう」
 ほんの数分だ、と彼はさらに言葉を重ねてくる。
「警備が厳しいのではありませんか?」
 マリューの言葉に、彼は同意をするように首を縦に振った。
「だが、それ以外に方法がない」
 キラに苦労をかけることになるが……とそのまま視線を向けてくる。
「それは、最初からわかっていることです」
 だからといって諦めるわけにはいかない。
「カガリが、今、大人しくしているのは、きっと、僕たちが助けに行くと考えているからでしょうし」
 でなければ、彼女のことだ。絶対、自力で何とかしようと考えているに決まっている。そうなれば、絶対に無事ではすまないはず。
 最悪、自我を奪われるのではないか。そんなことすら考えてしまうのだ。
「そうですわね。カガリの性格を考えれば、大人しくしている理由はそれ以外に考えられません」
 ラクスもそんなキラの言葉に同意をしてくれる。
「……取りあえず、アークエンジェルはいつでも出航できるようにしておくわ」
 このまま、この国にいるよりは一旦離れた方がいいだろう。マリューもこう口を挟んできた。
 確かに、それは正しいのだろう。
 でも、とキラは少しだけ不安になる。そんな状況を知らずにアレックスが戻ってきたらどうなるのだろうか。
「あいつのことは心配するな」
 内心が表情に表れていたのか。即座にバルトフェルドがこう言ってくる。
「エリカ主任には話を通しておくし、マルキオ様はここに残られる。子供達を連れて行くわけにはいかないからな」
 だから大丈夫だ、と彼はキラの肩に手を置いた。
「何よりも、ジャンク屋ギルドにも連絡を入れておけば、十分あいつには伝わるはずだ」
 そうでなかったとしても、あの男は自分で自分の身を守ることができる。その点はカガリとは違う、とバルトフェルドはきっぱりと言い切った。
「そうですね」
 アレックスは強い。だから、必ず追いかけてきてくれる。
 自分は自分が守らなければ行けない人のことを考えよう。
 キラは心の中でそう言い聞かせるように呟いていた。