世界が大きく揺れている。
 それは自分たちにも無縁ではない。
 それはわかっていたが、まさかこんなに早く厄介ごとが降りかかってくるとは思わなかった。それがバルトフェルドの偽らざる気持ちだった。
「……俺が起きていたのが、不幸中の幸いなのか……」
 そう呟きながら、彼は隠すように設置されていたあるボタンを押す。
「あいつらの目的はわからないが、備えをしておくべきだろうな」
 カガリのこともある。そう言って彼は顔をしかめた。
「まさか、昨日の今日で行動に出るとは思っていなかったが、な」
 それとも、そうしなければいけないことがあるのだろうか。そう思いながらも、バルトフェルドは立ち上がる。そのまま部屋の隅にさりげなく置かれていた箱の蓋を開けた。
「……これを使わずにすめばいいんだが……」
 子供達もいる以上、とそう付け加えながら、彼はその中から適当なものを取りだした。
「バルトフェルド隊長」
 そんな彼の背後でドアが開く音がする。同時に柔らかいが緊張を含んだ声が投げかけられた。
「悪いが、子供達とラクスを起こしてきてくれ。俺はマルキオさまとキラを起こしに行く」
 もっとも、二人とも気が付いている可能性の方が大きいが。
 だが、どうするべきかまでは判断できていないのではないか。そう判断しての言葉だ。
「わかりました。ホールで構いませんね?」
「いや……ホールでは周囲からの攻撃が避けられない。食堂の方がいいだろう」
 いざというときにもシェルターに逃げ込みやすい。言外にそう告げれば、彼女にはしっかりと伝わったようだ。
「わかりました」
 確認を終えると、彼女はそのまま部屋の外へとかけだしていく。その手には既に銃が握られていた。
「……何か、君との生活を思い出すよ」
 ふっと視線を向けた先に大切だった女性の写真を見つけてバルトフェルドは呟く。
「君を忘れていっては、後で怒られるね」
 そのままそうっと手を伸ばして彼女の写真が収められたフォトスタンドを取り上げる。そして、そのまま懐へと忍ばせる。
「さて……キラをたたき起こすか」
 できれば、彼を戦闘に巻き込むことはしたくないが、しかたがない。そう呟くと、バルトフェルドも十を片手に部屋の外へと足を向けた。

 この時までは、襲撃者はオーブの関係者だろう、と誰もが思っていた。

 何とか、全員無事にシェルターに逃げ込めた。その事実に、子供達は安心したような表情を作る。
 しかし、キラは違っていた。
「……キラ?」
 どうかしたのか、とラクスは問いかける。
「どうして……」
 それに答えるかのようにキラは唇を震わせた。
「どうして、コーディネイターがラクスを殺そうとするの?」
 わからない、と彼は体を震わせる。そんな彼の体をラクスはそうっと抱きしめた。
 自分は生きている。
 そう彼に理解されるには温もりを伝えるのが一番だろう。そう判断をしたのだ。
「わたくしにもわかりません」
 そのまま、そうっと口を開く。
「ただ、わたくしの存在を疎ましく思っていらっしゃる方がいたとしても、おかしくはないでしょう」
 アレックスは、ユニウスセブンの破砕作業の時に《ザラ派》のものと戦ったと言っていたではないか。彼らにとって見れば、パトリック・ザラの野望を打ち砕くような行動を取った自分は許せない存在だろう。冷静な口調でそう続ける。
「……なら、僕の方が……」
 実際に戦ったのは自分だ。キラはそう口にした。
「でも、お前の存在を知っているものは少ない。それに……俺たちのトップはラクス嬢だと思われているようだからな」
 精神的な事を言えば、それは間違いないだろう……とバルトフェルドが告げてくる。
「もっとも、それはお前も同じだが」
 ラクスだけでなくキラがいたからこそ、自分たちはあの戦争を終結へと導くことができたのだ。
 だからこそ、キラの存在は隠された。そうでなければ、あの戦いの後、心に傷を負った彼を守ることはできなかっただろう。
「だから、今はそんなことを言うな」
 こう言われて、キラが頷いたときだ。
「……何?」
 いきなり激しい振動が伝わってくる。
「怖い……」
 子供達がこう言いながら、マリュー達にすがりついているのが見えた。
「まさか……MSまで用意しているとは……」
 何が何でもラクスの命を奪おうとしているらしい。その事実に、ラクスは悲しくなる。
 自分の命だけならばまだしも、ここにはまだ幼い者達がいることもわかっているはずなのだ。
「このままでは時間の問題だな」
 バルトフェルドが眉をひそめながらこう呟く。
「……バルトフェルド隊長……」
 いったいどうするのか。ラクスがそう思ったときだ。
「ラクス。鍵を持っているな?」
 バルトフェルドが低い声でこう問いかけてくる。
「バルトフェルド隊長!」
 確かに、この状況ではしかたがないのかもしれない。しかし、そうさせたくないのだ。
「ミトメタクナ〜イ!」
 そんなラクスの気持ちを代弁するかのようにハロがこう連呼していた。