艦内が騒がしい。
「……何か、あったのか?」
 その事実にシンが眉をひそめながらこう問いかけてきた。
「出航準備をするように、と艦長の指示だ」
 理由まではわからないが、とレイは顔を潜めながら言葉を返す。
「だけど、修理はまだ終わってないんだろう?」
 修理が終わる前にどうして、というのはもっともな意見だ。他の者達もそう思っていたのだし、とレイも同意をする。
「重要な部分はもう終わっているそうだ。だから、出航には差し支えないのだろうが……」
 オーブも一枚岩ではない。
 結局はそう言うことなのだろう、とレイは心の中で呟く。
「ともかく、ぎりぎりまでは修理を続けてくれるそうだ。俺たちはいつでも出航できるようにしておくための準備をしておくだけだ」
 それが命令ならば、とレイは続ける。
「わかっているけどさ……何か、おかしくねぇ?」
 自分たちを取り巻く空気が……とシンは眉をひそめた。
「きっと……上層部で何かあったのだろう」
 今思い出したが、ここについたあの日からアレックスの姿を見ていない。カガリは何度か姿を見せている、と言うのにだ。
 他にもいくつ書きになることがあるが、そちらに関しては確証がない。不確実なことは言わない方がいいだろう。
「だから、オーブは……」
 少しは見直してやろうかと思ったのに……とシンは本気で憤っている。どうやら、外出先でも何かあったようだな、とレイは心の中で呟く。
「シン……」
 だからといって、軍務に支障が出るのは困る。そう判断をして、諫めるように彼の名を呼んだ。
「わかってるよ」
 インパルスの様子を見てくる。こう言い残すとシンはレイから離れていく。
「まったく……」
 口ではこう言いながらも、レイは相変わらずなシンの態度に安堵を覚えていた。

「……バルトフェルド隊長……」
 キラがそっと声をかけてくる。
「何か見つかったか?」
 本当に、こういうことに関してはこのオコサマの右に出るものはいない。もっとも、それがよいことなのかどうかはわからないが。そう考えながらも視線を向ける。
「地球軍の艦隊がオーブに向かっていますね」
 その目的が何であるのか、言われなくても想像が付く。
「わかった。詳しい進路を調べておいてくれ」
 根回しは自分がやる、という言葉に、キラは小さく頷いてみせた。
「ラクス」
 そのまま、二人の側に静かに座っている少女へと声をかけた。
「カガリに連絡、ですわね?」
 すっと立ち上がりながら言葉を返してくる。
「察しがよくて、助かるよ」
 笑顔と共に頷く。
「もっとも……連絡が付けばよろしいのですが……」
 ラクスが小さなため息とともにこうはき出した。
 確かに、それが今は一番不安な点だ。自分たちと彼女を分断しようとするならば、連絡を取らせなければいいのだ。
「……その時は、マーナさんに連絡を取って」
 キーボードを叩きながら、キラが口を挟んでくる。
「僕からだ、と言えばそのままカガリに伝えてもらえるようになっているから。いくらなんでも、乳母であるマーナさんまでは彼らも除外できないだろうって」
 だから、いざというときにはそうしようと言うことで話が付いているのだ、と彼はさらに言葉を続ける。
「いつの間に……」
 ここまで立ち直っていたのか。あの時の輝きがキラの中によみがえりつつあるようだ。いや、傷ついたからこそその輝きは増したのか。
「……逃げてばかり、いられませんから」
 残念だけど、とキラは寂しげな笑みを浮かべる。
「そうだな」
 確かに、逃げてばかりいては状況は好転しない。だからこそ、反撃のために機をうかがっていなければいけないのだ。
 ただ、その事実が彼を傷つけるだろうこともわかっている。そうである以上、頷くこと意外バルトフェルドにできることはなかった。

 目の前の人物の姿に、デュランダルは微かに違和感を感じる。
 確かに外見はそっくりだが、その身に纏う空気はまったく違う。
 と言うことは別人なのだろうか。だとするならば、いったい、どちらが本物でどちらが贋作なのか。それとも、二つとも本物で、自分が勝手に贋作だと思いこんでいただけなのか。
 その答えは、本人でなければわからないだろう。
 しかし、重要なのはそのことではない。
 大切なのは、このが意見を持った人物が自分の側にいてくれること。そして、自分を支持してくれることなのだ。
「良く来てくれたね」
 だから、せいぜい、大切にさせて貰おう。
 心の中でそう呟きながら、口元にはそれを微塵も感じさせない笑みを浮かべていた。