アレックスがいなくなると早速か。
 そう思いながら、カガリは目の前の者達を見つめる。
「貴殿らは、オーブにコーディネイターがどれだけ後見してくれていたのか、わかっていて言っているのか?」
 彼らの存在がなくなれば、オーブは《技術大国》と言う地位を失いかねない。それはいずれ世界を二分することになると言うことと同意語だろう。
 それではダメなのだ。
 それでは、バランスが取れなくなってしまう。
「オーブが中立を保つことで、プラントも地球連合も辛うじて均衡を保っている。その均衡を壊すつもりか?」
 そして、他のどちらの陣営にも属していない国々にも選択を迫るつもりか、とカガリは言い返す。
「ですが、カガリ様。このままではまた戦争に突入するのは目に見えています」
 だから、今のうちに選択をしておかなければいけないのだ……とウトナは言ってくる。
「そして、自分の手で世界の均衡を壊す、と?」
「壊そうとしているのはあちらの方ではありませんか?」
 ウトナの――いや地球軍の腰巾着の一人がこう言ってくる。
「……ユニウスセブンのことは、テロリストの仕業だ。ブルーコスモスのテロの責任を大西洋連合に取れ、と言わないだろう、貴殿らも」
 第一、とカガリは言葉を重ねる。
「いったい、何者があの映像を撮影したんだ?」
 破砕作業も手伝わず、と逆に問いかけた。
「あの場では、ザフトが必死に作業していたのだぞ。それをテロリストが邪魔をしてきた。だが、ザフトには撮影をする余裕などなかった」
 あの状況で撮影できるとは、ユニウスセブンが地球に落ちることがわかっていても傍観していたのと同じではないか? とさらにたたみかける。
「……それは……」
 どうやら、この者達は自分が何に乗って帰ってきたのかを忘れているらしい。そう判断をする。
「ナチュラルもコーディネイターも、等しく我が国の国民だ。同等に保護される権利を持っている。それだけは譲れない」
 それがオーブという国の理念ではないか。
 カガリはきっぱりとした口調で言い切る。
「……カガリ様はお疲れのようだ……」
 不意に、ウナトがこんなセリフを口にした。
「……何が言いたい?」
「それとも、弟君がそれほど可愛いですかな?」
 つまり、カガリの今の発言は彼女が疲れているためか、それともキラ可愛さからのセリフだ、と言いたいらしい。
 本当に何を考えているのか。それほど、地球軍の属国になりたいのか、とあきれたくなる。
「確かにあいつは可愛いぞ。私にとってただ一人の肉親だからな。本人もそれがわかっているからこそ、政治はもちろん、軍事にも関わってこない」
 頼めば、モルゲンレーテには協力してくれているが……とさりげなく本人は権力に興味がないのだ、と告げておく。
「もっとも、そこまで言うのであれば……そうだな。キラの存在を公にして私の補佐に就いてもらうか」
 少なくとも、軍人達は喜ぶな……とそうも付け加える。
「カガリ様……」
「違うのか? キラが有能だからこそ、そんなセリフを口にするのかと思っていたが」
 可愛いからこそ、政治の世界に関わらせたくなかったのだが……とカガリはわざとらしいため息を吐いてみせた。
 まさか、こう切り替えされるとは思っても見なかったのだろう。
「やはり、代表はお疲れのようだ」
 苦虫を噛み潰したような表情でウトナはこうはき出す。
「お時間を差し上げますから、じっくりとお考えください」
 この言葉とともに彼はきびすをかえした。他の者達も同じような行動を取る。
「……日和見な連中だ……」
 それほど地球軍――いや、ブルーコスモスが怖いのか。
 あるいは、そうすることで何かの利権を手に入れられるのかもしれない。
「調べさせるか……」
 軍に内密に調査を頼むか。それとも、キラ達か。
 どちらにしても早急に動かなければいけないだろう。
 でなければ、気が付いたときには周囲が固められている可能性もある。
「いや……既に遅いのかもしれないな」
 アレックスを自分から引き離した手際といい、既にあちらの歩が優勢になっているのかもしれない。
 それでも、だ。
 いや、それだからこそ、自分が諦めてはいけない。
「……取りあえず、彼ら、だな」
 ミネルバとその乗組員達を無事に脱出させなければいけないだろう。しかし、問題はどこまで船体の修理が終わっているか、だ。
 最悪のことを考えれば、領海外に出た瞬間、戦闘が開始される可能性だってある。
「まずは、モルゲンレーテだな」
 マリューかマードックを捕まえられれば、彼らに伝言を頼むことも可能だ。それが一番確実で安全だろう。
「……まったく……ここも安全ではないとは、な」
 自分の身を守る方法も考えておかなければいけないとは、とカガリはため息を吐く。
「まぁ、いい」
 まずはミネルバのことだ。こう呟くと彼女は立ち上がる。そして、そのまま毅然とした態度で歩き出した。