どうして、彼は気付いてしまうのだろうか。
 そう思いながら、アレックスはキラに地球に降下してくるまでの出来事を話した。
「……戦ったの?」
 キラがおずおずとこう問いかけてくる。
「ユニウスセブンの破砕作業に出たら、彼らがいたんだ」
 小さなため息とともにアレックスは言葉を口にし始めた。
「パトリック・ザラの示した道こそ、コーディネイターにとってただ一つの正しき道だ、とそう言われたよ」
 そう信じているものがいることも知っている。
 そして、そんな連中が象徴として祭り上げられる人間がいることも、だ。
 過去に何度も接触があったことは否定しない。連中にしてみれば、自分はそれほどまでに与しやすい相手だと思っていたのだろう。
 確かに、自分の腕の中に大切な存在を抱きしめていなければそうだったかもしれない。
 だが、自分には守るべきものがいる。
「……アレックス……」
 不安そうにキラが呼びかけてきた。
「そんなことはない、と俺が一番よく知っている。それは、キラも同じだろう?」
 言葉とともにそうっと彼の頬を手で包み込んだ。
「キラがここにいるのに、どうして俺があいつらの言葉に耳を貸す必要がある」
 もっとも、キラが『そうして欲しい』というのであれば話は別だが、とそうも付け加える。
「……僕が、そんなこと……」
「言うはずがないな。だからこそ、俺はキラが好きなんだよ」
 愛している、とさらりと付け加えれば、キラの頬が一瞬にして真っ赤に染まった。
「アレックス!」
 どうして、そういうことを言うの! と彼はその表情のまま慌てたように口にする。
「本当のことだからな。今更隠す必要もないだろう?」
 みんな知っている……とアレックスは平然と言い返す。
「でも……」
 恥ずかしいから、キラは訴えてくる。
「それに……僕も知っているから、ちゃんと……」
 アレックスが自分を好きでいてくれることは、と告げる彼の声は次第に小さくなっていく。
「……僕も、同じ気持ち、だし……」
 最後には蚊の鳴くような声でこう口にしてくれた。それだけでも十分だ、とアレックスは思う。
「まったく……」
 苦笑と共にキラの体を引き寄せる。
「我慢しようとしている人間を煽るんじゃない」
 キラの体調が今ひとつよくないようだから今日は抱きしめるだけで我慢しようと思っていたのに……とアレックスは苦笑を深めた。それでは満足できなくなってしまうだろう、とも彼は付け加える。
「……ご飯の後なら、いいよ……」
 別に、とキラは囁き返してきた。ただ、夕食を共にしないと子供達が寂しがるから、とも彼は付け加える。
「わかっているよ」
 そのくらいは妥協するよ、とアレックスは頷く。
「でも、その代わりに手加減できなかったとしても許してくれるよな?」
 ただでさえ、ここしばらくキラに触れられなかったのだ。それがしかたがないと意識ではわかっているが、だからといって感情が納得してくれるはずがない。
 下手をしたら、抱き潰してしまうかもしれないな。
 そう考えながらも、先に宣言をしておく。
「……明日、カガリが来たらいいわけをしておいてね」
 でないと、絶対に踏み込んでくるから……とキラは口にする。それは間違いなく了承と言うことだろう。
 同時に、どうして彼がそんなことを言い出したのかはわかっている。
「俺も、あの騒ぎはもうごめんだ」
 先日のことを思い出して、アレックスは頷く。
 あの後、キラに触れられないどころか顔も見られない日々が続いたのだ。そのままプラントへと向かえば、今回の騒動だ。はっきり言って、あの日から厄災が続いていたのではないか、とすら思う。
「もっとも……カガリが来られるかどうかはわからないがな」
 ひょっとしたら、自分も明日の朝には戻らなければいけない。言外にそうに追わせる。
「……ザフトの戦艦のこと?」
「それもあるが……見たんだろう?」
 あの時の映像を、とアレックスは逆に聞き返す。
「……うん……」
「セイランがどう動くか。それ次第だろうな」
 カガリ一人で対処できればいい。だが、そうならない可能性の方が高いのだ。
「切れまくったカガリが、いやされに来そうだしな」
 キラの存在に、と付け加えれば、キラはキラで少し困ったような表情を作る。
「……カガリも頑張っているから……」
 だから、そのくらいは妥協しないといけないのではないか。そうっとそうはき出す。
「僕たちは、表に出ない方がいいだろうから……」
 出れば、世界をさらに混乱の渦にたたき落としてしまうかもしれない。その言葉の裏に、キラの苦悩が感じられる。未だに彼の心の傷が癒えていないのだ、とそれからだけでもわかった。
「キラ……」
 そんな彼を抱きしめるしかできない。そんな自分の無力さを、アレックスは改めて認識させられてしまった。


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