マリア・ベルネスことマリューからキラ達の居場所を聞いて、アレックスは車を走らせていた。
「……取りあえず大丈夫だ、とは思いたいが……」
 一人残してきたカガリのことが気にならないわけではない。しかし、今の自分では何もできないと言うことも事実。
 それに、と口元に苦笑を浮かべる。彼女ではないが、自分だってキラが一番なのだ。だから、とそう思いながらさらにアクセルを踏み込もうか、と思ったときだ。
「……トリィ?」
 微かに色を変えつつある空に見覚えがある影が飛んでいる。それを確認して、逆にアレックスはブレーキを踏んだ。
「近くにいるのか?」
 キラが一人でここまで来るとは思えない。と言うことは、誰かが引っ張ってきたのだろう。
「……ラクス、だろうな、それは」
 彼女以外にそれができる人間はいない。
 しかし、彼女がそうするべきだと判断をしたのであれば、それはキラにとって正しいことなのだろう。
「トリィ」
 そう考えながら、空に手を差し伸べる。彼の仕草に心得たかのようにトリィが指先に降りてきた。
「キラはどこにいる?」
 そんなトリィに、こう問いかける。そうすれば、トリィは考えるかのように首をかしげた。
「近くにいるんだろう?」
 本当に生きている相手のように声をかければ、トリィは答えるように一声鳴く。そのまままた空に舞い上がると、滑るようにある方向へと向かう。
「そっちか」
 トリィの後を追うようにアレックスは車から降りた。そのまま海岸へと足を進めていく。
「あー! アレックスだ」
「帰ってきたの?」
「お家壊れちゃったんだよ! だから、また、ブランコ作って」
 砂の上を自分たちの方に向かって歩いているアレックスの姿に気が付いたのだろう。子供達が口々にこんなセリフを口にしながら、駆け寄ってくる。その人数を確認して、彼らには被害がなかったと安堵をした。
 もちろん、マリューから聞いてはいる。
 それでも、自分の目で確認するとしないとでは実感という点では違うのだ。
「……マリューさん達のお家だろう? みんなが『いい』と言ったら、作ってやる」
 彼らのためのブランコや何かであれば、そんなにむずかしくはない。それで子供達が喜べば、キラも笑みを浮かべてくれる。だから、と思いながらアレックスは飛びつくように抱きついてきた子供達をしっかりと支えてやった。
「おかえりなさいませ、アレックス」
 そんな子供達の後からラクスが微笑みを向けてくる。
「……無事で、よかった……」
 しかし、アレックスの視線はその隣で泣き出す一瞬前のように顔をしかめているキラへと向けられていた。
「俺もカガリも傷一つない」
 だから、そんな表情をするな……とアレックスは少し困ったように付け加える。
「みんな。わたくし達はもう少し、お散歩をして帰りましょう」
 アレックスはキラにお話があるようですから、とラクスはそんな二人の態度を見てこう告げた。
「ラクス……」
「ゆっくりとお話をしてください」
 そんな彼女の言葉に、キラは少しだけ困惑の色を瞳に浮かべる。
「大丈夫ですわ、キラ。みんな、いいこですもの」
 自分一人でもちゃんと面倒を見られるから、とラクスはキラを安心させるように口にした。
「それよりも、貴方がお疲れになってしまう方が問題ですわ」
 色々と大変でしたから、と付け加えられた言葉に、アレックスは顔をしかめる。そのまま手を伸ばすと、キラの体を自分の方へと引き寄せた。
「……熱があるのか?」
 掴んだ腕から伝わってくる体温が記憶の中のものよりも少しだけ高いような気がする。その事実に微かに眉を寄せながら、アレックスは問いかけた。
「そんなことはない、と思うんだけど……」
 言外に、体調不良はない、とキラは告げている。しかし、それを鵜呑みにできない、と言うこともよく知っていた。だから、アレックスは確認するように視線をラクスへと向ける。
「ちょっとお疲れかもしれません。ですから、車に乗せて上げてくださいませ」
 体調不良と言うよりは、久々に体を動かしているから体温が上がっているだけかもしれない、と言うことか。そう判断をしてアレックスは苦笑を浮かべた。
「わかった。そうさせて貰おう」
 一足先に戻ってバルトフェルド達と相談したいこともあるから、とそのまま口にする。
「アレックス?」
「詳しいことは車で、だ」
 子供達に聞かせたい話ではない、とにおわせれば、キラは小さなため息を吐いた。
「ラクス」
 そのまま視線を彼女へと移動させていく。
「夕食までには戻りますわ」
 だから、心配いりません……とラクスは微笑む。
「ねぇ、みんな?」
 そのまま彼女はさらに子供達にこう問いかけてた。そうすれば、みんなが元気よく頷いている。
「キラ、行こう」
 彼女の気遣いに感謝しつつ、アレックスはそう呼びかけた。
「……うん」
 キラが小さく頷いてくれる。それを確認して、アレックスはきびすを返した。そんな彼にキラも従ってくれる。
 歩き出そうとした瞬間、キラの肩にトリィが舞い降りてきた。