波にさらわれたのだろう。地上部は完全に倒壊していた。 「お家、なくなっちゃったね……」 ラクスの手を握っていた子が小さな声でこう呟いている。 「それでも、みんなが無事ならば何も問題はありませんよ」 マルキオが明るい口調で言葉を綴った。 「しかし、お引っ越しはしないといけませんね。マリューお姉さん達のいるお家にしましょう」 それはきっと、子供達を安心させるためだろう。 「……マリューさん達の?」 だが、彼女たちの所、と言うことはそれだけではない何かをマルキオが感じ取っていると言うことではないだろうか。 「あそこが一番都合がよろしいのですわ、キラ」 アスハの宮殿とも近いから、とラクスが囁いてくる。と言うことは、彼女もそれが必要だと考えているのだろう。 「……そう、なんだ」 二人がそう判断をしたのであれば、自分が異議を挟む状況ではないと言うことだ。 「なら、しかたがないね」 みんなも、マリューは大好きだし……とキラは微笑む。 「でも、コーヒーは遠慮したいな……」 ぼそっと呟かれた言葉の意味を、彼女は的確に理解してくれたのだろう。 「大丈夫ですわ。キラが飲まれる分はわたくしが用意をさせて頂きます」 だからなにも心配はいらない、と彼女は微笑む。 「ごめんね」 ラクス、とキラはそんな彼女に向かってこう呟いた。 「謝られる必要はありません。これはわたくしが選んだわたくしの立場ですわ」 当面は、になるかもしれないが……とラクスは小さなため息とともにはき出す。それが何を予感しての言葉なのか、キラにもわかっている。 「また……戦いが始まるね」 小さな声でこう呟く。 どうして人は今ある平和だけで満足できないのだろうか。そんな疑問もキラの中にわき上がってきた。 この平和を手にする貯めに、いったいどれだけの命が失われてしまったのかを、彼らだって知っているはずなのに。 この掌から、どれだけ大切な人の命がこぼれ落ちていってしまったのか、キラはよく覚えている。そして、そのことを考えるだけで胸が痛くなるのだ。 「大丈夫ですわ、キラ。貴方は一人ではありません」 そして、一人にもさせない。ラクスがこう言いながら、そうっとキラの腕に自分のそれを絡めてきた。 「わたくしだけではなく、カガリさんもアレックスも同じですわ」 全員が側にいることはむずかしいかもしれない。でも、絶対にキラを一人にしないから。 この言葉とともにラクスはそっとキラの肩に頭を寄せてくる。 「わかってるよ、ラクス」 自分が世界を拒んでいたときも、三人の温もりだけは感じていた。そして、自分を支えてくれていたことも覚えている。 「だから、僕は大丈夫だよ」 それに……とキラは心の中で呟く。そういう状況であれば、自分自身が動かなければいけない時期になっているのではないか。 戦いにおいてのみ、自分は必要とされる。 しかし、下手な状況で自分が動けば世界が余計に混乱することもわかっていた。 だから、とキラは唇をかみしめる。 今度はじっくりと状況を見つめて、それから決断を下さなければいけないのだ。 しかし、自分にそれができるだろうか。 考えれば考えるほど不安になってくる。それでも、そうしなければいけないのだ。 「キラ……今は引っ越しのことを優先しましょう」 そんなキラの考えがわかったのか。ラクスが穏やかな口調でこう囁いてきた。 「あちらに行けばマリューさんはもちろん、バルトフェルド隊長もいらっしゃいます。キラが一人で悩まなくても大丈夫ですわ」 誰もがキラの味方だから、と彼女はさらに笑みを深める。 「それに、もうじきお二人も帰ってきます」 そうなったらそうなったでうるさいだろうが、と付け加えられて、キラは苦笑を浮かべた。 「確かに、アレックスはうるさいよね」 自分の方が年上なのに、とキラはいつもの言葉を口にする。 「それだけ、彼がキラのことを好きなのですわ」 だから、妥協できるのだ……と言われて、キラは首をかしげた。 「ラクス?」 「彼は時々キラを独り占めしてしまいますもの」 それだけは気に入らないのだ、と彼女は少しだけ頬をふくらませながら告げる。その言葉の裏に隠されている意味に気付いて、キラは困ったように視線を落とした。 「ごめん」 この呟きに、ラクスは小さな笑いを漏らす。 「キラを怒っているわけではありませんわ。アレックスの狭量にあきれているだけです」 それでも、キラが彼と一緒にいることが幸せならば構わない。だから、気にしないでくれ、とラクスは告げた。 「そう言うことで、引っ越しの準備をしましょう。みんなの大切なものが少しでも残っていればいいのですけれど……」 この様子ではどうだろうか、とラクスは話題を変えてくる。 「一つぐらいは残っていると思うけど……」 探すのは大変そうだ、とキラはため息を吐く。 「マードックさん達が手伝いに来てくれるといいんだけど」 ひょっとして、自分が動かなければいけないのだろうか。しかし、自分が役に立てるとは思わないが。そう悩んでしまうキラだった。 |