個人を決めるのは、いったい何なのか。 遺伝子か。 だが、それならば、同じ遺伝子を持つ双子は同一の存在なのだろうか。 しかし、誰もが彼らにそのようなことを求めるとは聞いたことがない。 では、何なのだろう。 その答えを知りたい。 自分が《自分》としてではなく、同一の遺伝子を持つものとして生きることを強要されたその日から、ずっと悩み続けていた。 そして、その答えは、未だに見つけられないでいた。 「……いったい、誰がどうして……」 カガリが小さなため息とともにこう呟く。 今、彼女の脳裏に浮かんでいるのは、あの日のヘリオポリスの記憶だろう。 「人間は、愚かだ……と言うことだ……」 小さなため息とともに彼はそう言った。 「アスラン!」 「……アレックス、だ」 頼むから、ここで間違えないでくれ……と彼――アレックスはため息とともに付け加える。 「ここはザフトの新造艦の中だ。どこで誰が聞いているのかわからない」 不本意だがな、と彼はさらに言葉を重ねた。 状況次第では厄介なことになる。 それが自分にだけ関わることならばいいが、あの二人にまで波紋が及んではいけないのではないか。 「……すまん……」 そう付け加えれば、カガリにも状況が飲み込めたらしい。即座に謝罪の言葉を口にする。 「いや、いい。しかたがないことだから、な」 彼女だけではなく他の者達も間違えるのだから、とアレックスは苦笑を浮かべた。 「ただ、相手が俺だからいいものの、そう簡単に謝罪の言葉を口にするな」 お前は国の代表なのだから、とそうも付け加える。 「……どうして、だ?」 自分に非があったら謝るのは当然のことだろう? とカガリは聞き返してくる。 「お前が代表だからだ。下手に謝罪をしてそのせいで国に不利益が生じたらどうするんだ?」 この問いかけに、彼女はぐっと唇を噛む。 「親しいもの、身内にだけならば、謝罪をするのは悪くない。だが、お前の場合、TPOにあわせて使い分けできないだろう?」 ならば、次善策としてじっくり考えてから言葉を口にすることを身につけるしかないだろう。アレックスはこういった。 「取りあえず、感情に流されるな。それが身に付けばその他のことは自然とできるようになる」 その事実が自分たちの大切な存在を守ることにつながる、とそうも付け加えた。 「……気を付ける」 この一言が彼女にはとても重いものに思われたのだろう。即座にこう言ってくる。 「そうしてくれ。俺としては……もう二度とあいつを悲しませたくないからな」 二年――いや、もうじき三年になるのだろうか――前の戦争。 その戦争で、自分自身の存在を根底から覆されてしまった彼。 自分自身は大きく傷つきながらも、彼は世界を平和へと導いた。もちろん、それは彼一人の力だけではない。しかし、その中心に彼がいたことは誰も否定できないはずだ。 そして、今はその傷を癒やすために静かに暮らしている。 「もちろんだ」 同じ存在を思い浮かべていたのだろう。カガリは即座に頷いてくる。 「あいつに――キラに平和で静かな世界を与えてやりたいからこそ、私は……」 「知っている。だから、俺もお前に協力しているんだ」 本音を言えば、ずっとキラの側にいたい。 しかし、それでは彼を守りきることができない。 「キラの側には、ラクスがいてくれる」 彼女だけではなく、マルキオやバルトフェルド達もだ。だから、心配はいらないとわかっている。 それでも、やはりすぐ側にいられないという事実にはもどかしさを感じてしまう。それも否定できない事実だ。 「あいつが、いてくれたらな……」 ぼそっとカガリがこう呟く。 「いない人間のことをあれこれ言ってもしかたがないだろう?」 自分たちと道をわかった人間もそうだ。 今いる人員で最善と思える布陣を敷くしかないではないか。 「そうだな」 カガリも、それには頷いてみせる。 「ともかく、今日はもう休め。休めるときに休んでおかないと、どこでミスをするかわからないからな」 言葉とともにアレックスは立ち上がった。 「そうさせてもらう。お前も休めよ?」 カガリの言葉に頷くと、アレックスは自分に与えられた部屋に戻るために通路へと出る。 「本当……厄介なことになったな」 背後でドアが閉じた瞬間、彼はこうはき出した。 |