キラが、フリーダムのパイロットだった。
 彼の告白に、シンは何も言い返すことができなかった。
 混乱した思考のまま、その場を逃げ出すのが精一杯だったと言っていい。
 だが、冷静になってみれば『どうして』とも思うのだ。
「あいつは……キラは、軍人に向いているような人間じゃないのに……」
 ほんの数日しか一緒にいなくても、十分それが伝わってくる。
 彼の言動の一つ一つからは、他人を思いやる気持ちしか感じられないのだ。それなのに、どうして彼がMSに乗るようなことになったのだろうか。
 そこに何か理由があるようなきがしてならない。
「でも……あいつが、直接ではないとはいえ……マユ達を殺したんだ……」
 これもまた変えようがない事実だ。
 それをどう受け止めればいいのか……シンにはわからなかった。

 そのころ、キラの前には一人の人物が姿を現していた。
「ようやく、君と話をする時間がとれたよ」
 耳障りがいい声でこう告げたのは間違いなく、デュランダルだった。誰もがその声だけで彼に信頼を抱くのではないか。そうまで言われる声にも、キラは格段の反応を見せない。
「……僕のことよりも、優先しなければならないことがあるのではないですか?」
 キラは何の感情も見せない口調でこう告げる。
「たとえば……カガリ姫のことかね?」
 それとも、その側にいる人物の方かな? とデュランダルが意味ありげな口調で問いかけてくる。
「それをお聞きになって、どうなさるのですか?」
 しかし、キラはそれを取り合おうとはしない。
 もちろん、それが虚勢だ……と言うことをキラ自身がわかっていた。
 それでも自分がここにいることを彼らに知られたくないのだ。
 いや、知られるのはかまわない。
 しかし、彼らを利用するための《駒》になるわけにはいかないのだ。そんなことをされれば、彼らだけではなく最後の一人にも迷惑がかかってしまうだろう。
 こんな自分を何の見返りもなく愛してくれる彼女――もちろん、そんな彼女を、キラも大切に思っている。だが、それは《愛情》ではないことを、二人とも知っていた――そんな彼女の足かせにだけはなりたくない。
 いや、なってはいけないのだ……とキラは心の中で呟く。  だから、何があっても、彼に言質を取られてはいけない……とキラは思う。
「なるほど」
 しかし、そんなキラの態度すらデュランダルは楽しんでいるらしい。
「君の本心を聞き出すのはなかなか難しいようだね」
 ふっとため息をつくと彼はまっすぐにキラを見つめてくる。
「さすがは……友を守るためにただ一人、地球軍にいただけのことはある」
 それはほめているのだろうか。それとも非難しているのか。どちらともとれる口調で彼はこう呟く。
「だからこそ、一度君の本音を引き出してみたいと、思うのだよ。どのような手段を使ってでもね」
 言葉とともにデュランダルの手がキラの頬に触れてきた。
「貴方は……何を考えていらっしゃるのですか?」
 その手のぬくもりをどこか疎ましく感じながら、キラは問いかける。ラクスはもちろん、アスランやカガリ、それにシンのぬくもりはそう感じたことがなかったのに、とキラは思う。
 しかし、何故、ここにシンの名前が浮かんでしまうのか。自分ではわからなかったが。

 いくら考えても結論は出ない。
 それも無理はないだろう……とシンは思う。
 自分は彼ではないのだから、と。
「俺は……間違いなくフリーダムのパイロットは許せない……」
 これは間違えようのない事実だ。だが、とシンは心の中で付け加える。
 キラを憎み続けることは難しいのではないか……そうも思う。
 こちらの理由は簡単だ。
「どうして、キラがフリーダムのパイロットだったんだよ……」
 そうでなければ、自分は素直に今の気持ちを伝えることができただろう。それができないのは、あの時の光景が脳裏に焼き付いて離れないからだろうか。
「俺は……」
 どうすればいいのだろう。
 シンは形見の携帯を握りしめると、心の中で何度も呟いていた。



ちょっと変則ですが、シン視点とキラ視点のシーンを(^^;
シンがいないシーンでのキラとデュランダル議長の会話を書きたかったので……