「なぜ……僕をかまうの?」 食事のプレートを持って行ったシンに、彼――キラはこう問いかけてくる。 「君は、MSの、パイロット、何だろう?」 自分の世話など、他の者に任せればいいのではないか。キラはこう告げる。 そう言えば《キラ》と言う名前もさんざんねだって聞き出したものだ、とシンは思う。 「俺が拾ってきたんだし……それに、この艦には現在、重要人物が二人も乗り込んでいらっしゃるからね。そちらに人員を割くべきだから、だろう」 一人に関してはともかく、もう一組に関しては必要ない、とシンは考えていた。もっとも、それができないと言うこともわかっている。どんなに気に入らなくても、相手は《オーブの現首長》なのだから。 「アスハなんて……放っておいてもいいと思うんだけど……」 何気なくこう呟いたときだ。キラが信じられないというように目を丸くしている。 「……アスハ?」 「そう。オーブの現代表がこちらにおいでだ。護衛のやつと一緒に……もっとも、あの状況であれば仕方がないのかもしれないけどさ」 デュランダルもこの場にいるのだから、と言う言葉をシンは飲み込む。 「それが、どうかしたのか?」 キラは、呼吸すら忘れている。その理由を知る方が先決ではないか、と思ったのだ。 「……どうして、君は《アスハ》が嫌いなの?」 だが、キラが逆にこう聞き返してきた。 「君も……元はオーブの人間だ、とは聞いているけど……でも、ウズミさまは立派な方だったと思うし……」 「人間としては立派だったかもしれないけどさ。それでも、一国の指導者としてはそうは思えない」 キラの言葉を遮って、シンはこう言い切る。 「確かに、あの方の理念は立派だし、そのおかげで俺は《第一世代》は両親や兄弟と一緒に暮らせたっていうのも事実だ」 だけど、と彼はさらに言葉を続けた。 「一国の指導者なら、自国の人間を優先してほしかった……あんな、訳のわからないMSや戦艦を受け入れたから、地球軍の攻撃を受けたんじゃないか……そして、俺の家族は……」 その後の言葉を継げなくても、キラにはわかったらしい。白いまぶたがすみれ色の瞳を覆い隠した。 「……もし、そのMSのパイロットにあったら……どうするつもり?」 そして、こう問いかけてくる。だが、どうしてキラが……とも思う。それとも、彼はそのパイロットと知り合いなのだろうか。 「殺してやりたい、と思っていたよ……あのころは……」 確かに、あのMSのおかげで助かったものも多い。だから、逆に思ってしまうのだ。 どうして、自分の家族だけ、と。 何故、彼らも助けてはくれなかったのか、と。 だから、力がほしかった。 もし、そいつに会えたら、自分のこの手で殺してやろうと思っていたのだ。 だが、実戦を経験してしまった今では、その気持ちが揺らいでいると言うこともまた事実だった。 「……なら、僕を殺す? それでもいいけどね……」 しかし、キラが口にしたセリフはシンが予想していなかったものだったと言っていい。 「キラ……」 何を、とシンは深紅の双眸を彼へと向ける。 「君が言っている機体――フリーダムのパイロットだったのは、僕だよ……だから、君の家族を殺したのは、僕、かもしれないね……」 もっとも、あの時の状況を考えれば地球軍のMSだったという可能性も否定できない。 しかし、シンの瞳に映ったのは間違いなく、青い翼を持ったあのMSだった。 「……キラが、あのMSのパイロット……?」 信じられるか、と言われると、答えは《否》だ。 キラが持つ印象と、自分の経験がまったく結びつかない。 いや、他のパイロット達ともキラが身にまとっている雰囲気は異なっている。 「そうだ、と言っているでしょ?」 信じられない? と告げるキラに、シンは返すべき言葉を見つけられない。 「君は、僕をどうしたいんだろうね……」 そして、自分はどうするべきなのか。 呟くようにキラはこう告げる。 そんな彼の表情は、まるで殉教者のようだった…… 「名はその存在を示すものだ、ならばもし、それが偽りだったとしたら…それが偽りだとしたら、それはその存在そのものも偽り、という事になるのかな?」 デュランダルはアスランにこう問いかける。 「そして、君たちが行ったことはなかったことにするにはあまりにも大きな事柄だった」 二つの種族がほんのわずかでも歩み寄りためには……と彼はさらに言葉を続けた。 「そう。誰も、過去の自分からは逃げられないのだよ。そして、それをどう受け止めるか、それが一番重要ではないのかな?」 違うかね? と問いかけられて、アスランは翡翠の瞳を伏せる。 その表情を見つめながら、デュランダルは心の中にもう一人の面影を思い浮かべた。 ある意味、目の前の人物よりも彼の方が厄介かもしれない。 そして、あの少女も…… だが、自分はすべてのものを手に入れたいのだ。 自分が理想とする世界のためには。 そのために、彼も動かした。 「……君は、どう動くのかな……」 低い声で告げられた問いかけに、アスランが視線をあげる。 そんな彼に向かって、デュランダルは意味ありげな微笑みだけを返した。 今回の目標は、キラの告白だったのですが……キラ視点で書くべきだったか、とちょっと反省。でも、これの主人公は、あくまでも《シン》なので…… |