シンがそれに気づいたのは偶然だったと言うべきなのだろうか。 『どうした、シン?』 回線越しにレイの声が届く。 「救命カプセルだ」 おそらく、今の戦闘でアーモリー・ワンから射出されたのだろう。 それだけなら気にする必要はない。このまま、その乗組員は救助を待てばいいのだから。 しかし、それは外壁に損傷があるのか、エアが漏れているらしいのだ。ゆっくりとアーモリー・ワンから離れていく。このままでは発見が難しくなるのではないか。それ以前に中の空気が失われて乗員の命が失われる方が早いかも知れない。 『シン、収用しよう』 レイにもそれがわかったのか、こう言ってくる。 「了解」 助けられる命であれば助けたい。いや、助けなければいけないだろう。その思いのまま、シンはインバルスをそれに近づけていく。そして、しっかりとその腕で掴んだ。 「帰投する」 この宣言とともに、シンは抱えたカプセルごとミネルヴァへと機体を向ける。そして、レイのザク・ファントムとともに自分たちを迎え入れるために開かれているハッチへと滑り込んだ。 予想外の人物の訪問のためか、艦内はざわめきに包まれていた。だが、それよりもシンは、自分が収用してきたカプセルの方が気になっていた。 「生きているのか!」 着がえる間も惜しい、と言うように、この言葉とともに彼はそれに近寄った。 「待てって」 こう言葉を返してきたのはヨウランだ。 「今、確認をしている」 危険物がないかどうか、と言う言葉はもっともなものだろう。しかし、と思うのだ。 「手遅れににならないのか?」 「大丈夫だって。空気の流出は止まっている」 だから、窒息をすることはないはず、と彼は付け加える。 なら、いいのだが……とシンは心の中で呟いた。 自分が誰かの命を救えたのであれば、こうして力を得た甲斐があるというものだと心の中で付け加える。 もう、自分の前で誰かが死ぬのはいやだ、とも思う。それが、どのような相手であれ……と。 「大丈夫のようだな」 チェックが終了したらしい。 周囲がばたばたとし始めた。同時に、救護の者達の姿も確認できる。それは、万が一の事を考えてのことだろう。 「開けるぞ」 この言葉とともに、整備兵の一人がカプセルの端末を操作した。次の瞬間、ハッチが開く。 その中を、シンは即座にのぞき込んだ。 「……男?」 思わず、こんなセリフがこぼれ落ちてしまう。そう言いたくなるくらい、華奢な体躯を持った人物が内部でぐったりと意識を失っているのがわかった。 「だな……」 ヴィーノも同じ感想を抱いているのだろうか。うなずき返してくる。 「ともかく、医務室へ運んだ方がいいんだろうが……」 今、大丈夫か? と彼らは眉を寄せた。 「何かあったのか?」 「ちょっとな……」 シンのこの言葉に、彼らは微妙に言葉を濁す。 「大丈夫だろう。ともかく、運ぶぞ」 頭を打っているかもしれないから、できるだけ振動を与えるな、と命じる。それを耳にしたシンは、とっさにカプセルの中に体を滑り込ませた。 「シン?」 「俺が運ぶ」 言葉とともに、その体を抱き上げる。しかし、いくらここが低重力とはいえ、軽すぎるのではないだろうか。そう思うものの、あえて口にはしない。 いや、それ以上に気になることがある、と言うべきだろうか。 「こいつの瞳……何色なんだろうな……」 なぜか、それを確認したいという欲求がシンの意識をしめていた。その瞳に、自分の姿を映し出したい……とも思う。 それが何という感情から生まれたものなのか、シン自身、まだはっきりとはわかっていなかったが…… 送られてきた映像を見て、デュランダルは満足そうな笑みを浮かべる。 「丁重に扱うように」 巻き込んでしまったのはこちらだからな、と付け加えると、こう命じた。そして、そのまま通話を終わらせる。 「後は……彼の意識が戻るのを待つだけだな」 ある意味、自分がお膳立てをしたとはいえ、まさかここまでうまくいくとは思わなかった。 しかも、偶発的とはいえ、オーブの姫とザフトの英雄までこの間に乗り込んでいるのだ。それは、願ってもない状況だと言っていい。 「後一人……あなたさえ、私の元に来てくだされば……」 自分の計画は完璧な状況で進められるだろう、と彼は呟く。その言葉の意味を問いかける者は、誰もいなかった。 彼のまぶたが小さく震える。 次の瞬間、ゆっくりとそれが持ち上がった。 「地球の……夕闇の色だ……」 現れた、すみれ色の瞳を見て、シンはこう呟く。その声が耳に届いたのか。その瞳がゆっくりと彼の方へと向けられた。 「だ、れ?」 彼の瞳の中に、自分の姿が映っている。それを確認した瞬間、シンの背筋をなんと言えばいいのかわからない感覚が駆け抜けていった。 それが、彼らの出会いだった。 シンキラ妄想が降ってきたので、ちょっと始めてみようかと……短編読み切りシリーズにしたいのですが、どうなりますか。自分で自分の首を絞めていますね(^^; |