秘密の地図を描こう
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キラのこの反応は意外だったのか。ムウは不本意そうな表情を作っている。
「何で、と言われてもなぁ……どうして助かったのか。俺自身、そこのあたりは覚えてないからな」
気がついたら、医務室で、改変された記憶を押しつけられていた。彼はそう言う。
「あのときと同じ状況に直面して、深層意識の下に押し込められていた本来の記憶が表面に出てきた、ってことなんだろうが……」
それよりも、と彼は少し剣呑なものを瞳に映し出す。
「俺としては、そいつが当然のようにお前の隣にいることの方が驚きだがな」
そのまま、ムウはにらみつけてきた。
「キラが私を拾ってくれたのでね」
ラウはさらり、と言い返す。
「それに、この子は私たちに生きる意味をくれた。それで十分だと思うが?」
自分が彼のそばにいる理由は、と続ける。
「そして、キラがそれを認めてくれた。文句があるというのであれば、その前に自分が彼から離れたことに言うのだね」
もし、あのとき、彼がキラのそばにいれば、キラはあそこまで不安手になることはなかったのではないか。そう思わずにいられない。
だが、すべては終わったことだ。
「……それよりも、私としてはキラを休ませたいのだがね」
そろそろ、と付け加えた。
「あぁ。確かに坊主はいったん休んだ方がいいな」
そうすれば、彼は即座にうなずいてみせる。
「話は後でもできるが……ここで坊主に寝込まれるのは後々厄介だ」
さらにこう言った。
「どうせ、しばらくは状況確認だけだろうからな。それなら、俺たちで十分だ」
さらにバルトフェルドまでも彼らに賛成をする。そこまで言われてはキラも聞き入れな訳にはいかないのだろう。
「……僕はお飾りですから」
しかし、このセリフは聞き逃せない。
「キラ」
ため息とともに彼の名を呼ぶ。
「本当のことだと思いますけど?」
違うのか、とキラは聞き返してくる。
「大間違いだ」
この言葉とともにバルトフェルドがキラの頭を軽く叩く。
「お前がいるからこそここにいる連中は集まったんだろうが」
全く、と彼は続ける。
「ただ、お前より俺たちの方がなれているだけだ。幸か不幸か、ここにいるのは隊長クラスの人間がほとんどだからな」
なれてる人間がする方がいい。適材適所、と言うだろう? と彼は笑った。
「そうだな」
ムウもそう言ってうなずく。
「不本意だが、書類仕事が苦手ではなくなったしな。そういう点では任せておいてくれていいぞ」
それに、と彼は続ける。
「必要なら、あいつらの誰かを添い寝させてやろうか?」
そのままアウル達へと視線を向けた。
「別に!」
何を言い出すのか、と言うようにキラは慌てて口を開く。
「心配しなくても、必要なら私が見張っていますよ」
いつものことだ、とラウは笑う。
「そうだな。鷹さんにはこれから他のことで苦労してもらわないといけない」
にやりと笑いながらバルトフェルドがそう言った。
「そうですわね。とりあえず、カガリの罵詈雑言を聞いていただかないと」
ふふっと笑いながらラクスが口を挟んでくる。
「連絡をしたときも大騒ぎでしたわ」
さらにミリアリアが追い打ちをかけた。
「……おいおい……勘弁してくれよ」
ため息とともにムウが言う。
「ネオをいじめないで」
何かを察したのか。ステラが慌てたように彼に抱きついた。
「いじめていませんわ。ちゃんと責任をとってくださいね、と申し上げておりますの」
「そうよ、ステラ。ネオさんにはいろいろと責任をとってもらわないといけないことがあるのよ」
たとえば、と少女二人は声をそろえる。
「マリューさんのこととか」
「ちょっと! 貴方たち、何を……」
それが予想外だったのか。マリューは慌てたように口を開く。その瞬間、ムウが頬を引きつらせ、バルトフェルドが視線を彷徨わせる。
男性陣のその様子に、何故か周囲から笑いがわき上がった。