秘密の地図を描こう
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目の前で巨大な建造物が四散していく。その光景は、かつてのヘリオポリスを思い出させる。
「……これで、終わりになればいいのに……」
もう、誰も悲しむようなことがなければいい。キラは小さな声でそう呟いた。
『ジプリールを捕縛した? 本当なのか、それは!』
イザークの声が通信機から響いてくる。どうやら、周囲に聞かせるためにオープン回線をあえてつかっているらしい。
「……捕まったんだ」
ほっとしたようにそう呟く。
「これで、戦争が終わるかな?」
今、戦闘を続けている地球軍の兵士達も、この言葉で投降してくれればいい。そうすれば、大切な人たちのところに帰れる人が増えるだろう。
イザークもそう考えているからこそ、オープン回線で報告したのではないか。
『キラ……まだ気を抜いてはいけないよ?』
そのときだ。そばまで来たラウが回線越しにこう言ってくる。
「わかっているつもりですが……」
それでも、少し気が抜けてしまったのは事実だ。
『まぁ、君らしいがね』
苦笑とともにラウはそう言ってくる。
『そういう君をフォローするのが私の役目だからね』
彼がさらにそう続けたときだ。周囲を信号弾の明かりが照らす。
『どうやら、あちらにも賢明な指揮官がいたようだね』
投降信号だ、と彼が言った。
「そうですね」
後は、彼らがきちんと撤退するのを確認すればいい。キラはそう言ってうなずく。
『キラ様』
今度はクサナギから通信が入る。
「はい。何か?」
もう、敬称付けで呼ばれることはあきらめた。それでも、不本意なのは事実だが。そんなことを考えながら言い返す。
『地球軍の監視は我々が行います。キラ様はアークエンジェルで休憩を取ってください』
その後の方が忙しくなるだろう。そう告げられる。
「ですが……」
それでは彼らに負担が行くのではないか。そう思わずにいられない。
『そうしなさい、キラ』
だが、意外なことにラウが彼らの肩を持つ。
『カガリ嬢がこちらに来ない以上、交渉の場に赴くのは君だ。疲労でミスをするよりはきちんと休んで的確な判断ができるようにしておいた方がいい』
今回、一番負担が大きかったのはキラだ。彼はそう続けた。
「……わかりました」
確かに、自分は臨時のトップかもしれない。だからといって、オーブに不利益な行動をとっていいわけではない。
「では、後をお願いします」
静かな声でそう告げる。
『お任せください、キラ様』
即座に言い返された。その言葉の裏で、何か完成のようなものが上がっているような気がするのは錯覚だろうか。
『キラ?』
だが、それを確認する前にラウが呼びかけてくる。それは早々に戻れ、と言う意味なのだろう。
「今、戻ります」
言葉とともにフリーダムの位置を変える。
『それがいいね』
ラウの機体もまた、フリーダムの隣へと並んだ。
「……何かあったのですか?」
彼の声音に微妙な響きを感じ取ってそう聞き返した。
『戻ればわかるよ』
これは何かを企んでいる。それがわかる程度には同じ時間を過ごしている。しかし、それがなんなのか。そこまではわからない。
悲しいことでなければいいな。心の中でそう呟きながらキラはフリーダムをアークエンジェルに向けて発進させた。