秘密の地図を描こう
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これが最後の砦だとわかっているからだろうか。地球軍の抵抗は激しい。
「だからといって、これ以上、撃たせるわけにはいかないんだよ!」
プラントはもちろん、地球にも……とディアッカは叫ぶ。
『ディアッカ!』
そのときだ。聞き覚えのある声が耳に届く。同時に、彼の目の前の地球軍のストライクダガーが動きを止めた。
「キラか」
にやり、と笑いながら彼は口にする。
『あちらの破壊は僕たちが引き受けます』
そういうと、彼のグフの脇をフリーダムがすり抜けていく。
「任せた!」
やはり、こちらに来たか。心の中でそう呟きながら、ディアッカは言い返す。
「雑魚は任せておけ!」
さらに彼はこう続けた。
もちろん、彼であれば両立は可能だ。しかし、彼の精神状態を考えれば分担した方がいい。何よりも自分達の面目も立つ。
そんなことを考えてしまう自分に、思わず自嘲の笑みが浮かんでくる。
『うん、お願い』
しかし、キラは柔らかな口調でこう言い返してくるだけだ。その言葉に気負いはない。
そう言うところは相変わらずだ。と言うよりも、変わらないから《キラ》なのかもしれない。
「わかったから、さっさと頼む」
言葉とともに目の前に飛び込んできた敵を撃墜する。
本当は、キラのように相手を殺さずに動きだけを止められればいいのだろう。しかし、自分の技量ではそれは難しい。
相手が生きていることを祈るしかないなと言うのは悔しいが、生き残る方が先決だ。
キラもそれがわかっているのだろう。フリーダムとミーティアを全速であの巨大な建造物へと近づけていく。
「……あれは、誰だ?」
もう一機、ミーティアがいる。
「順当に考えれば、あの人か」
バルトフェルドでなければ、と呟く。
「あんなことも可能なんだな」
もっとも、それはモルゲンレーテの技術力があってのことだろうが。
「まぁ、いい。俺は俺の仕事をするだけだ」
この言葉とともにまた、イザークは手近な一機をたたき落とした。
後どれくらいであれが発射されるのか。
「ともかく、発射だけは阻止しないと……」
そうでなければ、あちらにいる味方にどれだけの被害が出るかわからない。
『でも、どうすればいいんだよ!』
その声が届いたのだろう。シンがこう叫んでいるのが耳に届いた。
「どうするもこうするも、攻撃する以外ないな」
動力源を遮断するにも、基地の中に入らなければ不可能だろう。だから、少しでも損傷を与えて安全装置を働かせるしかない。
レイはそう言い返した。
『わかってる!』
でも、とシンがだだをこねるように告げてきたときだ。
『レイ・ザ・バレル』
聞き覚えはあるが、誰のものかすぐには思い出せない声が割り込んでくる。
「誰、だ?」
反射的に誰何した。
『カナード、と言って覚えているかどうかわからないが、な』
彼は早口で言葉を綴る。
『それよりも、ジプリールが逃げるぞ』
今、出航しようとしている戦艦だ……と彼は続けた。
「ですが!」
『こちらは任せておけ。基地の内部から破壊しておく』
カナードは何でもないことのように告げる。
『それが俺の本来の仕事だからな』
心配するな。彼はそう続けた。
「……わかりました」
確かに、ジプリールを取り逃がすわけにはいかない。そう判断をして、レイは言葉を口にする。しかし、いいのだろうか。そう考えてしまうのは、自分が軍人だから、だろう。
『かまわない! 行け』
まるでタイミングを待っていたかのようにミゲルの声がスピーカーから響いた。
「隊長?」
『位置的に、お前たちが一番近い。もし、確保できないようなら、遠慮せずに撃破しろ』
いいな、と彼は続ける。
「了解です」
許可が出たなら遠慮はしない。
「シン、つきあえ!」
『当たり前だろう!』
言葉とともにインパルスが近づいてくる。それを確認して、レイは指示されたポイントへと急いだ。