秘密の地図を描こう
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「いつの間にこんなものを用意したのかね?」
かつての部下に向かってラウはそう問いかける。
「計画自体は以前からあったようです。僕はそれを手直ししただけですね」
もっとも、マードックとモルゲンレーテの協力がなかったら難しかったかもしれない。ニコルはそう続ける。
「ただ、フリーダムと違って、こちらは内蔵バッテリーだけですから、それだけを注意してください」
もちろん、MSに積まれているものとは容量が段違いに大きい。それでも、最大出力でビーム系を使えばすぐになくなるだろう。
「わかった。心しておこう」
そうならないように、とラウはうなずき返す。
「もっとも、私はあくまでもキラのフォローが役目、だからね」
メインは彼だ、と言う。
「了解です」
ニコルはすぐにうなずく。
「では、後はお任せします」
そのまま、彼はコクピットから離れた。
「さて……」
それを見送りながら、ラウは小さく呟く。
「私にこれを使いこなせるかどうか……」
それにしても、と小さな笑みを浮かべる。運命とは本当にわからないものだ。
もちろん、その間にもシステムのチェックは進めている。だが、思考は止められない。
「それもこれも、キラがいたからか」
自分が変わったのはと笑う。しかし、そんな自分がいやではない。
「今が楽しいからかもしれないね」
キラの面倒を見るのも、他の者達に頼りにされるのも、だ。そして、そのための時間は自分に残されていると言うことが一番なのかもしれない。
しかし、もう一人は、まだ、そうではない。
「だから、早く終わらせないとね」
そうすれば、少なくともこの戦争は終わる。その結果、自由を得られるものはレイだけではないはずだ。
「何とかなりそうだな」
システムのチェックを終えるとそう呟く。
「後は、キラの足を引っ張らないようにしないとね」
他の者達はどうでもいいが、と続けた。
「彼らは彼らで何とかするだろう」
特に、あの男は……と呟く。その脳裏に浮かんでいたのは、もちろん、ネオだ。
「カガリ嬢ではないが、本当に一度、フライパンで頭殴りつけたくなるね」
そうすれば、わずかでも自分達のことを思い出すのではないか。
「……言ってやりたいこともたくさんあるからね」
もっとも、キラを悲しませるようなことだけはしないようにしなければいけないだろう。
どちらにしろ、すべてが終わってからだ。今は余計な事はシャットアウトしておくべきだろう。口の中だけでそう呟いたときだ。
『ラウさん』
通信機からキラの声が響いてくる。
『いけそうですか?』
その声がどこか不安げなのは錯覚ではないだろう。
「大丈夫だよ。まぁ、あくまでも君のフォローだからね、私は」
それならば十分だ、と続けた。
『そうですか』
ほっとしたような声がすぐに返ってくる。
「君に心配されるとはね。私もまだまだかな?」
苦笑とともにそう言った。
『別に、そう言うわけでは……』
慌ててキラは言い訳をしようとする。
『……ただ、もう、誰も死んでほしくないだけです……』
しかし、それは失敗だったかもしれない。彼に辛いことを思い出させてしまったようだ。
「心配はいらないよ。殺しても死なない連中ばかりだ」
あまりあれこれ言っても負担になるだけだろう。そう判断をして、さらりとこう告げる。
「それでも心配なら、少しでも早く、今回の作戦を終わらせるようにしなさい」
自分も手を貸すから、と微笑む。
『はい』
それで納得してくれたのか。キラは小さく言葉を返してきた。