秘密の地図を描こう

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「……お前」
 アウルとスティングがゆりかごに、ステラがミリアリア達とキッチンに行くのを確認してすぐにネオが口を開く。
「何故、俺の嗜好に詳しい?」
 その言葉に何と答えを返せばいいのか。キラは困ったようにラウを見上げてきた。
「ごく普通の判断だと思うが?」
 彼を刺激しないように、と言ったのは自分だ。だから、と思いながら口を開く。
「甘いものが苦手なものはそれを相殺できるようなものでごまかそうとするものではないかね?」
 コーヒーが苦手なら申し訳ないが、と彼は続けた。
「言っておくが、この艦のコーヒーはこだわる人間がいるのでね。かなり旨いと思うぞ」
 もっとも、好みにあえばの話だが……と笑う。
「大丈夫だと思いますけど」
 最近は独創的なブレンドをしている暇がない、とバルトフェルドが嘆いていたから……とキラが口にする。
「今の方が僕は好きですけど」
 味は、と彼は小さな声で付け加えた。
「確かに」
 最初に飲まされたようなスペシャルブレンドは遠慮したい、とラウも思う。
 だが、さすがに食堂にあるものは大丈夫なはずだ。ステラがもらってくるのであればなおさらだろう。
「……やっぱり、この艦はおかしいな」
 ため息とともにネオはこう言う。
「軍人とは思えん」
 ぼそっと彼はそう続ける。
「この艦はどこの軍にも所属していませんから」
 軍人は乗り込んでいるが、とキラは言う。
「おかげで、彼らのこともあのような状況で保護できているともいえるがね」
 本来であれば、ステラが最初されていたとおり、実験材料にされていたはずだ。だが、ここではこの部屋に閉じ込められている事以外は普通の捕虜と同じ扱いかそれ以上に緩い扱いしかされていない。
 それができるのは、この艦がどこにも属していないからだ。
「名目上はオーブ所属だが、元は地球軍の軍艦だし……クルーにも地球軍出身者は多い。その上、オーブだけではなくザフトの軍人もいる」
 だからこそ、自分もこうして自由にできているのだが……とラウは笑った。
「前回の対戦では、最後までこの艦と敵対していた人間だからね、私は」
 そう付け加えたときだ。
「思い出した……お前があの《ラウ・ル・クルーゼ》か」
 ザフトの隊長の、と続ける。
「ずいぶんと鈍い男だね、君も。私はちゃんと本名を名乗っていたよ?」
 最初から、とあきれたような表情を作って見せた。
「ひょっとして、バルトフェルド隊長のことも認識していなかったのかな?」
「さすがに《砂漠の虎》のことはわかっていたさ」
 イメージ通りだったからな、と彼は言い返してくる。
「しかし、お前は……」
 そう言いかけたところで、不意にネオが視線をキラへと向けた。
「まさかと思うが、そいつが俺を墜としたパイロットだとは言わないよな?」
 そしてこう問いかけてくる。
「残念ながら、君を墜としたのは彼だよ」
 そして、スティングの機体も……とラウは言い返す。
「私が知っている限り、キラ以上のパイロットはいない」
「と言うことは、そいつがフリーダムのパイロットか」
 その声に剣呑な色がにじむ。反射的にラウは彼をかばうように体の位置を変えた。
「別にどうしようという気はないから、安心しろ」
 しても意味はないだろう、と彼は言う。
「ただ、確かめたかっただけだ」
 どんな相手だったのかを、と彼は付け加える。
「第一、家の連中がなついているんだ。さすがに現状であいつらを説得するのは難しいからな」
 それに、と彼は視線をそらしながら続けた。
「ここなら、あいつらを戦わせずにすむ」
 その分、長生きさせてやれるだろう。そう言うところは以前のままだと言っていいのだろうか。
「なら、おとなしくしているのだね」
 ラウはそう締めくくる。同時に、どうやって記憶を取り戻させてやろうか、と考えた。そうすれば、現状にかなりショックを受けるだろう。目の前の男に対する恨みは消えているが、やはり嫌がらせはしたい。心の中でそう呟いていた。


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最遊釈厄伝