秘密の地図を描こう
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手を止めると、キラは小さなため息をつく。
「一応、バグはつぶしたつもりです。確認をお願いできますか?」
エイブスへと視線を向けるとそう声をかけた。
「わかりました。そろそろ、爆発しそうだったんで、ちょうどいいタイミングですよ」
苦笑とともに彼はそう言い返してくる。
「シン君らしいね」
確かに、待機ばかりで飽き飽きとしている頃だろう。と言うより、今までよくおとなしくしていたな、と思う。
「……待つのも仕事だからね」
軍人は、と言ってきたのは部屋の隅で座っていたラウだ。
「まぁ、若い連中は突っ走る傾向にあるが」
ミゲルとイザークはその典型だった……と彼は続ける。
「……それは、もう言わないでくださいよ」
それを隣で聞いていた本人がさりげなく文句を言う。
「……アイマン隊長、その方は……」
シンへの連絡を終えたエイブスがそっと問いかけてくる。
「あ、今のは聞かなかったことにしておいてくれよな。特に副長には」
騒がれるといろいろと厄介なことになる、とミゲルが慌てて言い返す。
「僕と一緒で、まだ、体調が万全じゃないですから」
とりあえず、とフォローのためにキラも口を開く。
「あまり表に出ない方がいいだろうしな」
いろいろな意味で、とラウも付け加えた。
「とりあえず、ミゲルとレイを通してなら、相談事に乗ることはやぶさかではないよ」
ただ、実戦にはまだ耐えられないだろうね……と彼はさらに言葉を重ねた。
「あぁ……それで、今まで噂を耳にしなかったのですか」
納得しました、とエイブスはうなずく。
「そう言うことなら、現状は内密にしておきますよ。艦長には別ですが」
「かまわないよ。グラディス艦長には議長経由で連絡がいているはずだからね」
彼女とは何度か話をしたことがある、とラウは言い返す。
「もっとも、その頃はまだ軍人ではなかったが」
グラディス艦長も、あの戦争後に軍人になったと言うことだろうか。
「それは、それは……と、インパルス、発進したそうです」
「わかりました。モニターしますね」
これで何もなければいいのだが、とキラは心の中で呟く。そうすれば、また、自宅でおとなしくしていられるのに、とも考えてしまう。
「どうやら、今のところ、大丈夫なようですな」
合体も成功している。
「後は換装だけですね」
シルエットシステムの、とキラは言う。
今まではここでバグが出ていたのだ。しかし、実戦ではこれが確実にこなせなければいけない、と言うことを彼は知っている。
「ですな」
現在はフォースだから、とりあえずソードにでも……とエイブスは指示を出す。
「インパルスのみの訓練では成功してるから、心配はいらないと思うが」
ミゲルが呟くようにそう言う。
「ミネルバには様々な新システムが組み込まれていますからねぇ。シルエットシステム単体なら問題ないと思うのですが」
他のあれこれと干渉し合ってバグが出るのだろう、とエイブスが言う。
「最新鋭も良し悪し、だな」
ミゲルがため息をとともに告げる。
「でも、これだけのシステムは既存の艦には取り付けられないよ」
それよりは新造艦に組み込んだ方が楽だろう、とキラは言い返す。
「だよな」
即座に彼は言い返す。
「で?」
「とりあえず、大丈夫みたい」
無事に換装が終了。同時に、外されたパーツも回収できた、とデーター上は出ている。
「なら、君もこれでお役ご免だね。しばらくはのんびりとするか?
苦笑とともにラウが声をかけてきた。
「いいですね、それ」
キラがそう言い貸したときである。いきなり、艦内に非常警報が鳴り響く。
「何だ?」
何があった? と真っ先に反応を見せたのはミゲルだ。
「……確認してきたまえ」
「わかってます」
ラウの言葉にうなずくと彼は出て行く。
「……なんでしょうか」
いやな既視感を覚えながら、キラは問いかける。
「わからない。ただ、覚悟はしておくべきだろうね」
ため息とともにラウが言い返してきた。
「ここには今、ギルもいる。そして、新型も何機かあるはずだ。手に入れるか破壊するかしたいものはいるだろう」
だが、まだ、確定したわけではない。
「ともかく、君は動かない方がいい。もちろん、私もね」
まだ、とラウは言う。
「……わかっています」
ただ、この平和が壊されることがいやなのだ。キラはそう心の中で呟いていた。