秘密の地図を描こう
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「予想以上に厄介な状況のようだよ」
ラウは多少のイヤミを込めて言葉を口にする。
「未だに作業が終わっていない」
普通であれば、ここまで時間がかかるはずがないのに、と言外に続けた。
「……それは困ったね……」
その言葉を聞いた瞬間、ギルバートはそういう。
「出航を遅らせればいいだけのことだろう?」
就航式だけは済ませても、とラウは言い返す。
「いや、そういう意味ではないよ。そのあたりのことはいくらでも融通が利くからね」
自分の立場であれば、と彼は笑う。
「問題なのはそれではないのだよ」
ある意味、もっと厄介なことだといえる……と彼はため息をつく。
「オーブの姫が明日、そちらに着く。護衛も一緒に、ね」
それが誰のことか、ラウにもわかっていた。
「……来なくてよいものを」
思わず本音を漏らしてしまう。
「仕方がないね。内密に、と言うことである以上、あれ以外連れてくることは不可能だったのだろうね」
そう考えれば仕方がない。
「あちらも、もっと簡単に終わると思っていたのだよ」
すれ違うかもしれないが、顔を合わせずにすむだろうと考えていたのだ……とギルバートは付け加える。
「ともかく、お前が何とかするんだな」
その二人のことは、とラウは言う。
「……仕方がないね」
苦笑とともに彼はうなずいてみせる。
「その代わり、彼のことは任せてもかまわないね?」
ミネルバに同行できるように手配をしておこう、と彼はさらに言葉を重ねた。
「……不本意だがね。仕方があるまい」
自分は表に出ない方がいいのだが、と原画に付け加えながら言葉を返す。
「万が一の事態になりそうだからね、不本意だが」
あの二人のことではなく、とギルバートは顔をしかめた。
「……何か、厄介なことでも見つけたかな?」
お前がそこまで言うとは、と呟く。
「地球軍の中にね」
何をしようとしているのか。そこまでは確認できなかったが……と彼は言う。
「だが、君がそばにいてくれればどのような状況でも最善な対策をとってくれると思っているよ」
だから、と言われては妥協するしかないだろう。
「仕方がないね。そこまで言われては引き受けないわけにはいけないだろう」
キラを守るのが今の自分にとって一番重要なことだし、とラウは笑う。
「レイもいるし、ミゲル達も使い物になっているだろうからね」
フォローはしてもらえるだろう、と続けた。
「問題があるとすれば、あの艦の新人達の心構えぐらいか?」
レイ達から聞いた程度だが、ラウはかすかに表情をこわばらせる。
「……というと?」
「どう考えても、彼らはまだお遊び気分が抜けていないと思えるのでね」
実戦の場に出たときにどれだけ動けるか。
「実戦は訓練とは違う。親しいものが戦死する可能性がある。いや、それだけではなく、自分自身の命が一瞬で消えるかもしれない。それを本当の意味で認識できているかどうか」
それが不安だ、と続ける。
「なるほど、ね」
確かに、それは実際に経験しなければわからないことだ、とギルバートもうなずく。
「それでも、ミネルバにはアイマン君がいるだけましかもしれないよ?」
「それは否定しないね」
さて、どうなるか。
「しかし、厄介なことになりそうだね」
そして、こういうことだけは勘がよく当たるのだ。
何事もないことを祈るしかない。そう考えるラウだった。