秘密の地図を描こう
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ギルバートの顔を、ラウがあきれているようなさげすんでいるような視線で見つめてくる。
「ずいぶんとまた、レベルが下がったものだ」
そのまま、彼はこう言った。
「……そう言わないでくれるかな?」
そんな彼に苦笑を返す。
「これでもがんばって育成しているのだよ。しかし、それが追いついていない、と言うことは否定できないがね」
優秀な人材は極力実戦の場に回しているから、とギルバートは言い返す。
「何よりも、キラ君の才能がずば抜けているからね」
それに周囲がついて行けないのだろう。そういえば、ラウは苦笑を返す。
「まぁ、いい。あちらにはミゲルとレイがいる。妥協しよう」
本当は自分も同行したいのだが、と彼は続けた。
「ザフトに戻ってくれるなら、手配できるが……」
「それでは、彼のそばにいられなくなるね」
軍に戻れば、キラだけを優先するわけにはいかなくなる。それは十分にわかっていることだ。
だが、彼を一人にしてはいけない。
「わかっているよ。だから、お前に『復帰しろ』と言わないだろう?」
彼が――どのような立場だとしても――ザフトに復帰してくれれば、自分の負担はかなり減るだろう。
しかし、キラのことを考えれば、それはできない。
「為政者としては失格かもしれないがね」
苦笑とともにそう続けた。
「私もレイも、それを非難しない。だから、安心しろ」
ラウが即座にそう言ってくる。
「ひょっとして、慰めてくれるつもりなのかな?」
「まさか。貴様に何故、そんなことをしてやらなければいけない?」
キラやレイならばフォローするのは当然だが、と彼はあきれたような視線を向けてきた。
「おやおや。つれないね」
「自分よりも年上の男に甘えられて『かわいい』とは思えないからな」
しかも、本性をよく知っているとなれば……と続けられて、苦笑いをするしかない。
「ともかく、だ。ミネルバの艦内には乗り込めないが、近くで待機できるように手配しておこう」
キラのためにも、その方がいいだろう……と口にする。
「そうだね。それがいいだろう」
自分が一緒であれば、キラもほっとできるだろうし……と彼はうなずいて見せた。
「君ならば、何があっても対処をとることができるだろう?」
この言葉に、彼は眉根を寄せる。
「不測の事態が起こる可能性があると?」
「……近日中にアスハの姫とその護衛がアーモリーに来られる予定だ」
内密に、と告げた。
「……厄介だね、それは」
この時に、とラウは言う。
「あちらはあちらで難しいポジションにおかれているようだからね」
本当に、キラをプラントで預かっていてよかった……とついつい口にしてしまった。
「英雄は、一人でいいと?」
馬鹿馬鹿しい、とラウは言う。
「どうだろうね」
ただ、と続ける。
「あの中でナチュラルなのはアスハの姫だけだった」
それが重要だと考えているものは多いのだろう。
同時に、彼女のそばからコーディネイターを排除しようとするものもだ。
「ともかく、まだ、彼らとキラ君を会わせるわけにはいかないからね」
まだ、と続ける。
「そうだな」
何がキラにとっての地雷なのか。彼らは知らないから、とラウはうなずく。
「……もっとも、それもあの子次第だろうが」
キラが彼らに「会いたい」と言えば拒むわけにはいかないだろう。そう言う彼に、ギルバートは笑みだけを返した。