秘密の地図を描こう

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 帰ってきたときからレイの表情が芳しくなかった。
 それはどうしてなのか。
「……レイ?」
 何かあったのか、と声をかけてみる。
「ちょっと疲れただけです」
 即座に彼はこう言い返してきた。
「嘘だね」
 ため息とともにキラは断言する。
「キラさん?」
「そのくらいはわかるよ。この三年近く、ずっとそばにいたんだし」
 そう言って彼は微笑んだ。しかし、レイは逆にため息をつく。
「なら、どうしてご自分のことがわからないのでしょうか」
 もう少し、自分のことも考えてくれればいいのに……と彼はため息をつく。
「……話をそらさないで」
 自分でもわかっているんだけど、できない者はできないのだから仕方がない……とキラは開き直る。
「あきらめるんだね、レイ」
 どこから聞いていたのだろうか。苦笑混じりのラウの声が耳に届く。
「それがキラ君だから、仕方がない。私たちが気をつけておけばいいだけのことだ」
 そうだろう? といいながら、彼はお盆を片手に姿を見せる。
「それよりも着替えてきなさい。その後で話を聞こう」
 キラに隠しておいても無駄だよ、と彼は笑った。
「そうですね」
 仕方がない、と言う様子でレイがうなずく。
「君もだよ、キラ」
「……はい」
 着替えの時間ぐらいは与えるべきなのか……と思う。
 しかし、頭のいい彼のことだ。その間に適当ないいわけを考えつくような気がする。
 だから、と思ってしまったのだ。
 しかし、ラウの言うことも理解できる。
「いい子だね」
 小さく首を縦に振れば、彼は眼を細めてこう言った。そのまま、視線でレイに自室に行くように促す。それを確認して彼はキラの前から移動していく。
「僕は子供じゃないです」
 ため息とともに反論の言葉を口にする。
「十分子供だよ」
 自分から見れば、とラウは笑う。
「たった九歳しか違いません。一回りも違うなら、妥協しますけど」
 それが誰のことをさして言っているのか、彼にはわかっているのだろう。
「あの男も、軍でもまれて多少は変わったのか」
 それとも、キラだからか? と彼は続けた。
「私も、あれのことは言えないがね」
 苦笑とともにそう言うと、彼はお盆をテーブルの上に置く。そして、カップを取り上げると差し出してきた。
「とりあえず飲みなさい」
 その間にレイが戻ってくるだろう。
「はい」
 彼が戻ってこなければ意味がない。それがわかっているから素直にうなずくとカップに手を伸ばした。
「それにしても、あの子の未熟だね。君に悟られるとは」
 大きくなったと思ったが、まだまだか……とラウは言う。
「まぁ、あの子は君よりも年下だしね。仕方がないね」
 しかも、戦場を体験したことがない。それもあるのだろう……と彼は続ける。
「しかし、あの子の悩みは何だろうね」
 恋の悩みでなければいいのだが、とラウは真顔で付け加えた。
「ラウさん?」
「それは私の管轄ではないということだよ」
 キラの問いかけに彼は苦笑を返してくる。
「そのときは、ギルを呼び出せばいいだけか」
 彼は経験豊富だからね、と続けられた言葉に同反応を返せばいいのか。すぐにはわからなかった。

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最遊釈厄伝