秘密の地図を描こう
32
小さなため息とともにキラが手を止めた。
「キラさん?」
「ごめん……もう入らないから」
レイの問いかけに、彼はそう言い返す。
「半分も食べていないでしょう?」
だが、レイも負けてはいない。即座にこう告げた。
「……わかっているんだけど……」
「なら、後、二口ずつでいいですから、食べてください」
この言葉に、キラは小さくうなずく。そして、一度置いたフォークを手に取った。その姿を見た瞬間、ギルバートは小さな笑いを漏らす。
「ギル?」
「ギルさん?」
それが耳に届いたのだろう。異口同音に『どうかしたのか』と彼らは問いかけてきた。
「いや……そうしているとどちらが年上なのか、と思っただけだよ」
この言葉にキラの頬が真っ赤に染まる。
「……ギル……」
逆にレイはため息とともに彼の名を呼ぶ。
「お願いですから、キラさんをからかわないでください」
本気で彼の食欲がなくなる、と彼はそのまま抗議の言葉を投げつけてきた。
「それはすまなかったね」
感じたままのことを口にしただけなのだが、とギルバートはため息とともに口にする。
「仲がよくていいと思っただけなのだが」
見ていて楽しい、と彼は続けた。
「何せ、君たちが来るまで、ここは静かだったからね」
ラウは決して騒ぐ達ではない。逆に、彼とであれば殺伐とした空気に支配されかねない。
「それはそれで楽しかったがね」
食事を楽しむという点を除けば、とギルバートは笑った。
「ともかく、キラ君はもう少し太りなさい。でなければ、体力も戻ってこないよ」
それでは、いざというときに動けないのではないか。そう言いながら、彼は視線を彼に向ける。
「それは、わかっているのですが……」
「やはり、ラウにいじめられたから、かね?」
彼も大人げない、とため息をつく。
「そう思うなら、ギルが責任を持って防波堤になってください」
なれているでしょう? とレイが言い返してくる。
「否定はしないよ」
しかし、とギルバートはため息をつく。
「それでは、いつまで経ってもキラ君を彼が認めないよ」
それでもいいのか、と彼は聞き返した。
「……それは……」
「まぁ、彼も馬鹿ではないからすぐに落ち着くよ」
今は混乱しているだけだろうし、とギルバートは言う。
「とりあえず、明日は少し気分転換をしてくればいい」
夜にもう一度話をして、明後日の朝にあちらに戻ればいいのではないか。
「もっとも、キラ君はもうしばらくこちらにいてもらって検査を受けてもらった方がいいかもしれないがね」
幸いなことにラウのこともあって時間を空けている。だから、大丈夫だよ……と付け加えた。
それにキラは少し考え込むような表情を作った後で、小さくうなずいてみせる。
「……仕方がないですね。代わりに、明日は一緒にケーキを買いに行きましょう」
土産をねだられているし、とレイはため息をつく。
「僕はかまわないけど……」
「大丈夫ですよ。今の俺でも、あなたを守ることは可能です」
念のために変装をしてもらえばもっと大丈夫だろう。そう言って彼は笑った。
「出かけるなら、護衛を手配しておくよ」
だから、楽しんできなさい。ギルバートもレイを応援するように口を開く。
「ギルの場合、他にも何か企んでいそうで怖いです」
それは好意だったのだが、何故かこう言われてしまった。
「心外だね」
苦笑とともにそう言い返す。だが、こんな風に言い返せるようになったのはいいことかもしれない。そうも考えていた。