秘密の地図を描こう

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「お帰り」
 早かったね、とギルバートが出迎えてくれる。
「……すみません、勝手に……」
「連絡を入れた時点で帰ってきてくれると確信していたよ」
 キラの言葉を遮って彼はそう言う。
「アマルフィ君には手間をかけさせたかもしれないが」
 視線を移動させると彼は微笑んだ。
「それこそ、気になさらないでください。友達のためであれば当然のことです」
 にっこりと微笑みながらニコルは言い返す。
「あちらに戻るときは連絡してくださいね。僕がだめでもミゲルをよこしますから」
 決して一人で戻ろうとするな、と彼は続けた。
「大丈夫だよ。週末になればレイも戻ってくるはずだからね」
「あぁ、バレル君が一緒なら大丈夫ですね」
 安心したように彼はうなずく。
「……僕って、それほどまでに信頼ない?」
 何か、とキラは思わず言ってしまう。
「自分で自分のことぐらいなら守れると思うんだけど」
 さらにこう付け加える。
「そう言うことじゃないですよ、キラ。僕たちが不安なだけです」
「そう言うことだ。あきらめなさい」
 時々、彼らの笑顔が怖いと思うことがある。それが二人分そろうと威力はさらに倍増だ。
「……そう、ですか?」
 返す笑みも、少しだけ引きつったものになってしまう。
「そう言うことですよ」
 では、また……と言うとニコルはきびすを返す。
「お茶ぐらい飲んでいかなくていいのかね?」
 そんな彼に、ギルバートが声をかける。
「今日のところは、母が待っているそうなので」
 そう言って微笑むニコルにはラウのことは伝えていない。今回のことも『ギルバートからの呼び出し』とだけ説明をした。
 しかし、ひょっとしたら何かを察しているのかもしれない。
「では、また今度誘わせてもらうよ」
 ギルバートの言葉にニコルはうなずく。そして、そのまま帰っていった。
「本当に聡いね、彼は」
 その背中を見送りながらギルバートが言葉を口にする。
「どこまでならば踏み込んでもかまわないか。的確に判断できる」
 だからこそ、キラを預けようと思ったのだが……と彼は微笑んだ。
「もっとも、レイがアカデミーに入ろうとしなければその必要もなかっただろうがね」
 それも彼の判断だから仕方がない。そう続ける。
「レイは優秀ですよ」
 自分が見た範囲では、とキラは言い返す。
「もっとも、アカデミーの学生としては、と言うところですが」
 実戦ではどうかはわからない。だが、わからないままでいてくれれば一番だ、とも思う。
「何。今のところはそれで十分だよ」
 今しばらく、この均衡を破られないようにする程度の権力はある。ギルバートはそう言いきった。
「それに、彼も目覚めてくれたしね」
 この言葉に、キラは自分の体が緊張するのがわかる。
「怖いかね?」
 それに気づいたのだろう。ギルバートがほほえみかけてくれる。
「少し……」
 それも覚悟していたのに、とキラは思う。
「何、大丈夫だよ」
 言葉とともに彼の手が頭に乗せられた。
「私たちが付いている」
 小さくうなずけば、そのまま彼は髪をなでてくれる。
「子供じゃないですよ、僕は」
「私から見れば、十分子供だよ」
 この言葉が他の誰かを思い出させるのはどうしてだろう。性格も何も違うのに、とキラはふっと考えてしまった。

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最遊釈厄伝