秘密の地図を描こう
05
レイには何か秘密がある。
でなければ、こんなにしょっちゅう部屋を抜け出さないはずだ。
「まさか、一人で特訓なんてしているわけ、ねぇよな?」
可能性がないとは言えないな、と思う。しかし、それならば誰かが見ているはずだ。自分達候補生達が使える施設は決まっているから、と続ける。
「じゃ、何してるんだ?」
すごく気になる、と呟く。
「かといって、聞いてもはぐらかされるだけだし……他の連中には絶対に相談できないし……」
相談なんかしたら大騒ぎになるのはわかりきっている。そうなれば、大事になりかねない。最悪、レイが処分される可能性だってあるのだ。
「でも、気になる」
気づいてしまった以上、知りたい。
もちろん、レイが知られたくないことならば引き下がるべきだろう。しかし、本人が何も言わない以上、自分が何をしても彼には文句を言う権利はないはずだ。
だから、自力で調べてやろうと心の中で呟く。
「でも、課題より難易度が高いかもな」
こっそりつけようとしても見つかるような気がする。
でも、そうしないと答えは見つからないよな……とため息をついたときだ。
「何が、課題より難易度が高いんだ?」
入り口の方からレイの声が響いてくる。
「……レイ?」
いったい、いつの間に帰ってきたのか。いや、それ以前に、どこまで聞かれていたのか……とシンは焦る。
「俺が帰ってきては悪いのか?」
表情に焦りが出ていたのだろう。レイがこう問いかけてきた。
「いや……いつもはもっと遅いから、びっくりしただけだって」
こんなに早いとは思わなかった、と苦笑とともに付け加える。
「……そんなに遅かったか?」
どうやら、本人は自覚していなかったらしい。初めて気づいたというようにこう言った。
「何をしてるんだ、お前」
今がチャンスなのだろうか。そう考えて、シンは問いかけた。
「……それについては、今は話せない」
即座に彼はこう言い返してくる。
「ただ……そうだな。もうしばらくしたら協力をしてもらうかもしれないな」
自分だけでは判断できかねるが、と彼は言った。
「とりあえず、今はそれで納得してくれ」
「……必要なことなのか?」
「あぁ」
いろいろな意味で、と彼はうなずく。
「了解。それなら、とりあえずは気づかなかったことにしておく」
本当に教えてくれるなら、とシンは言葉を重ねた。
「悪いな」
レイはそう言うと、自分が使っている方のデスクに歩いて行く。
「……そういえば、お前はオーブ出身だったな」
ふっと思い出した、と言うように彼は視線を向けてきた。
「あぁ……何でだ?」
「……フリーダムの話題が出たからな」
ちょっと、と彼は言う。その瞬間、シンは納得という表情を作った。
「フリーダムか……パイロットには会ってみたい、と思うな」
聞きたいことがあるから、とそのまま続ける。
「何を、だ?」
レイが目をすがめながら口を開く。
「救えなかった命について、どう思っているか、だ」
自分の家族も含めて、と続ける。
「……そうか」
レイはこの一言だけを口にすると、視線を元に戻した。そのまま、いすへと腰を下ろす。
それがどうしてなのか。シンには、わからなかった。