ラウの言葉は嘘ではなかった。 それ以上に周囲を驚かせたのは、現在地球軍がセイランと組んで進めている計画の方だと言っていいのかもしれない。 それでも、すぐに動けないのは、カガリが《ナチュラル》だからなのだろうか。それとも、政治的配慮とか言う奴なのか、とシンは眉を寄せる。 だが、確かに下手に動けば厄介なことになるだろうと言うことも想像ができた。 だからといって、何もしないわけにはいかないのだろう。さらにラウ達が忙しくなっていることだけはシンにもわかっている。 いや、シンだけではなくキラもわかっているのではないか。 「……僕にも、何かできればいいのに」 キラがこう呟いているのをシンは何度も耳にしている。 「そうだな」 だからといって、下手に手を出すこともできない。そんなことをすれば、逆に彼等の邪魔をしてしまいそうなのだ。 でも、キラならば違うのだろうか。 「情報の整理ぐらいならできるかもしれないけど、それならば、もう、ラウさんやカナードさんがやっているだろうしさ」 と言うことは、こうして大人しく与えられた課題をこなしているのが一番いいのだろうか。しかし、それも違うような気がするし……とシンは心の中で呟く。 レイに相談したくても、彼は今、アカデミー受験前であれこれ忙しい。それを邪魔するのは気が引けるし……とそうも思う。 「……情報、集めればいいんだよね」 その時だ。キラが小さな声でこういった。 「キラ?」 ちょっと待て、とシンは慌てる。 「何をする気だ?」 ひょっとして、自分は彼女に何か言ってはいけないセリフを投げつけてしまったのではないだろうか。シンはそう思ってしまう。 「……兄さん達だけじゃなく、カガリもあれこれ頑張っているんだもん。僕だけぼ〜っとしているわけにはいかないよね」 だが、キラの方は本気で動き出しそうだ。 これは本気で誰かに相談をした方がいいだろう。でなければ、取り返しの着かないことになりかねない。そんなことも考えてしまう。 「でも、キラ。それでラウさん達の邪魔をすることにならない?」 キラの実力から考えればあり得るかどうかわからないが、下手に動いて相手に気付かれる可能性とかさ……とシンは慌てて口にする。 「大丈夫だよ。今まで、ばれたことないから」 しかし、これは予想外のセリフだ、と思わず目を丸くしてしまった。 「……今までって……」 そんなことをやってきたのか、とシンは驚いてしまう。 「だって……カガリ達のことが心配だったし……みんなの所に植えてきた種がちゃんと花を咲かせているかどうかも知りたかったから」 地球軍の監視衛星を使えば、きっと、衛星写真で確認できると思ったのだ……と彼女は口にする。その気持ちは、理解できた。しかし、その方法は間違っているような気がしてならない。 「キラ……」 でも、その方法は問題ではないのか。 シンとしては、そう主張をしたいのだが、キラ達は違うようだ。 「カナード兄さんは知ってるよ?」 平然とした口調でこんなことを言ってくれる。 「……マジ?」 「うん。だから、調べてもいいよね」 にっこりと微笑みながらこう言ってくるキラに何と言い返せばいいのか。言葉を見つけられないシンだった。 「……好きにさせるんだな」 どうしたらいいのかわからずに、シンはカナードに相談しに言った。 静かに話を聞いていた彼はふっと笑いながらこう言葉を口にする。 「カナードさん」 「キラも、何かしていないと落ち着かないだろうし……あの子の実力は、今となっては俺よりも上だから、な」 失敗をするような事はないだろう、と彼はあっさりと言った。こうまで断言をするのなら、キラに好きにさせればいいのだろうが……とシンは思う。だが、そうなると別の問題がわき上がってくる。 「……そうなると、俺だけすることがないんですよね」 自分の実力不足のせいだ、とはわかっていた。 それでも、何か疎外感を感じてしまう。 「することはあるぞ」 だが、何故か意味ありげな笑みを浮かべながらカナードがこう言ってくる。 「カナードさん?」 「頼むから、キラの生活を見張っていてくれ。おそらく、俺も今までのようにずっと側にいられるわけじゃないからな」 そして、レイもだ……と彼は付け加えた。そうなれば、キラの側にいられるのはシン一人だと言うことになる。だから、と彼は言うのだ。 「あの子が倒れると、俺たちはみな、冷静でいられなくなるからな」 さらに、彼はこう付け加える。 「……それは、当然のことだと思っていますけど?」 キラのことを気にかけるのは、自分にとって普通のことだから……とシンは言い返す。 「そういってくれて嬉しいよ」 頼むな、とカナードは彼の肩をそうっと叩く。 「もし、それだけで不安だというのなら、そうだな……キラを守れるようにあれこれたたき込んでやるが?」 どうする? と彼は問いかけてくる。 「やります!」 シンなそれに、即答をした。 もっとも、それを後悔するのも、それからすぐのことだったが。それでも、元々の負けん気でしっかりとカナードの出した試練を乗り越えていったあたり、流石だといった方がいいのかもしれない。 |