「……アカデミーに?」
 レイからその話を聞いた瞬間、シンは思わずこう聞き返してしまった。
「そうだ。以前から考えていたことだ」
 ラウと同じ道を歩んで、彼の役に立つことを……とレイは口にする。
「キラさんの方の状況も落ち着いたようだから、いい機会かな、とそう思うんだ」
 さらに言葉を重ねられた。
 と言うことは、既に決意が固い、と言うことなのだろうか。だとするならば、自分はどうすればいいのだろう。自分はまだ、明確な進路を描けないでいるのに、とシンは唇を噛む。
「そんな表情をするな。お前がキラさんの側にいてくれるとわかっているからこそ、俺は離れられるんだ」
 でなければ、いくら、あの男のことが片づいたとしても、キラの側を離れてアカデミーに入学しようなどとは考えない。レイはそういって笑う。
「それに、あれよりも先に入らないとな」
 迂闊に後輩になんてなれない、とレイは真顔で付け加えた。
「年齢が下だろうと、先輩は先輩だからな」
 さらにこんなことまで言い出す。本気で、アスランの後輩にはなりたくないらしい。まぁ、その気持ちはわからなくもないがな……とシンは心の中で呟く。
「俺もアカデミーに入った方がいいのかもしれないけど、な」
 キラを守れるようになるためには、とシンは小さな声で呟いた。
「お前まで、今、ここをはなれると、な。キラさんを一人にしてしまうからな」
 アカデミーにはいるのであれば、自分と入れ違いになってくれた方がいい。レイはこう口にする。
「ただ……キラさんはいずれオーブに帰ることになると思う。その時、お前も一緒に行く気ならば、ザフトには入らない方がいいと思うぞ」
 あれこれ余計なしがらみができるから、という言葉にシンは微かに首をひねった。どうして、そこまで言い切れるのだろうか。
「まぁ……帰れるものなら、帰りたいけどな」
 それでも、あそこには自分の家族とキラの家族が眠っている。だから、幸せになった自分たちを見せに一度は行きたいと思っていることも否定しない。
「キラさんだって同じだって。口にしないだけで」
 だから、シンはそのままでいればいい……と彼は付け加える。
「それに、キラさんを守る技量……と言うことなら、今まで通り、カナードさんに教えて貰えばいいだろう?」
 言いたくはないが、アカデミーで教えられる内容よりも高度なものを自分たちは彼から学んでいるらしいぞ、と言われて、シンは目を丸くした。
「マジ?」
「本当だって。だから、ラウもギルも安心して、カナードさんに一任しているんだそうだ」
 その気になれば、MS戦もラウと互角にやり合えると思うぞ……と言われて、納得できるところがある意味恐い。
「あぁ。そうかもな」
 家事から始まって戦闘まで何でもこなせる彼は、確かに理想かもしれないな……とシンも頷く。
「だろう? だから、キラさんを直接護衛するのはお前とカナードさんで、俺たちはそのサポートだと思えばいい」
 アカデミーで学んだことは、ちゃんとシンにも教えるから……とまで覚悟を決めている以上、反対をすることはできない。
「わかった」
 だから、こう言って頷いてみせた。

 数日後、久々にラウが帰ってきた。
 しかし、彼と一緒に来た相手を見て、シンは思わず顔をしかめてしまう。
「何で、そいつが一緒にいるんだよ!」
 自分たちを見捨てた《アスハ》の――いや、この場合五氏族家と言うべきか――の跡取り娘が、と思わず口にしてしまう。
「……お前は?」
 それに、相手の方が不審そうな表情を作ってラウに問いかけている。
「話しただろう、カガリ。彼がキラの婚約者だ」
 どうやら、ここに来るまでにあれこれ説明をされていたのだろうか。カガリにはそれだけで全てがわかったようだ。
「すまなかった……私の力不足のせいで、お前から家族を奪ってしまった……謝っても意味がないことはわかっているが、そうする以外に、今の私には何もできない」
 こう言って、彼女は頭を下げてくる。そんなことをされては、逆にどうしたらいいのか、わからなくなってしまった。
「……お、おい……」
 困ったように、シンは周囲に視線を彷徨わせる。
「詳しいことは、後で説明をしよう。ところで、キラとカナードは?」
 ラウがこう言ったときだ。
「お帰りなさい、ラウ兄さん!」
 嬉しそうな声とともに、キラが駆け寄ってくるのが見える。しかし、カガリの姿を見た瞬間、その動きが止まった。
「……カガリ?」
 信じられないというように、その唇が言葉を綴る。
「そうだ、私だ、キラ!」
 大丈夫、本物だ……と口にしながら、彼女は足早にキラに歩み寄っていく。そして、そのままキラの体を抱きしめた。
「すまなかった、キラ……私たちの力不足のせいで、あのバカに好き勝手させてしまった……」
 あいつらの監視下から逃げ出すのに、少し時間がかかってしまった……と彼女はさらに言葉を重ねる。
「いいよ。カガリが無事でいてくれて、嬉しい」
 この言葉がどこまで本心なのか。自分だったら、絶対に言わないセリフだ。だが、、キラなら本気でそう思っている可能性が高いな、とも思う。
「それよりも、ウズミ様は?」
「お父様も、命は別状がない。しばらく静養していれば、間違いなく元通りになられる」
 できれば、その日までにこちらとしても準備を整えておきたいところだ……とカガリは笑った。
 と言うことは、やはり、五氏族家の中で、何かあったと言うことなのか。それに、自分たちは巻き込まれたと言うことなのかもしれない。
「ともかく、詳しいことは落ち着いてからだな。ギルも、今日は戻ると言っていた」
 それまでは、カガリに休んで貰いなさい……と付け加えるラウに、キラも頷いてみせる。
「こっち。僕の部屋でいいよね?」
 そして、カガリの手を取るとこう口にした。
「あぁ、悪いな」
 カガリはカガリで、頷くとそっとキラに寄り添っていく。
「……何か、面白くない……」
 そのまま歩き去っていく二人の姿を見送りながらシンは思わずこうはき出す。
「久々の再会だからね。今だけは我慢してやってくれないかな?」
 そうすれば苦笑混じりにラウが声をかけてくる。
「おそらく、カガリはすぐに忙しくなるだろうし」
 その結果、自分たちの処遇も大きく変わってくるだろう。
「わかってます。ただ、ちょっと面白くなかっただけです」
 だから、シンはこう言い返すだけにとどめておいた。