レノアに引きずられるようにしてクライン邸を後にするアスランの姿を見送ってから、ラクスはキラの様子を見に行く。当然、カナード達も一緒だ。 「……いつ、レノア様にご連絡を?」 その途中で、ラクスは一番気にかかっていた疑問をカナードに投げかける。 「レイから連絡を受ける前に、あいつの姿を見かけたからな。レノア様に取りあえず報告させて頂いただけだ」 何でもないことのように彼は言葉を返してきた。 「アスランの様子を見張っていてもらうのに、彼女以上の適任者はいなかったからな」 息子よりもキラのことを優先するというのはどうか……とは思うが、彼女の場合、カリダの代わりにという気持ちもあるようだから、自分としては許容範囲だ。そうも彼は続ける。 「ですが、今回だけは助かりましたわ」 レノアの登場に、とラクスは口にした。 「でなければ、おそらくあの方は、キラが休んでいる部屋にまで乗り込もうとしたはずですもの」 そして、キラにとって決定的な言葉を口にしたかもしれない。 そうなったら、キラがどうなるか。 最悪の結果になった可能性だってあるだろう。そう思うのだ。 「あの子の傍にはシンがいるから、取りあえず大丈夫だった……と思いたいがな」 あの二人の絆はそれだけ強くなっているはずだ、とカナードは口にする。そうなるように応援してきたし、とも言う彼にレイも頷いてみせた。 「そうですね。キラさんにとって、シンは自分とは関わりのない存在で……でも、そういうキラさんでもいい、と言ってくれた初めての存在ですから」 キラにとってはそれが何よりも嬉しいことだったというのは、簡単に想像ができる。だから、自分もシンの存在を認めたのだ。 「あら。シンだけではありませんわ。他のみなも一緒ですもの。あのアスランが早々馬鹿なことを口にするとは思えません」 彼にしてみれば、自分の立場を危うくすような行動だけは取れない。少なくとも、事情を知らない人間の前では。そう思っているようだ……とラクスは笑う。 「私もそうですけれど」 こう付け加えた彼女にカナードも苦笑を返す。 「貴方は、それでよろしいのですよ、ラクス・クライン」 少なくとも、人の心に癒しを与える存在である以上は……とカナードは口にする。 「そういって頂けて嬉しいですわ」 ラクスは歌姫としての笑みを作った。 「私の癒しはキラですもの」 キラが幸せそうに微笑んでいる姿を見ているのが、一番の癒しなのだ……そういいきる。 「あの方も、そう言えるようになればよろしかったのに」 ほんの少し考え方を変えるだけで、キラの側にいられたはずなのに、とラクスはため息をつく。 「無理でしょうね、あの人は」 「確かに。あいつは、精神的に成長できなかったようだからな」 ある意味、辛辣なセリフをカナードは口にする。 「しかし、アカデミーとは……ラウに伝えておくか」 一からたたき直してくれそうだな……と彼は楽しげな表情で口にした。 「……俺としては、あれが先輩になるのは嬉しくありませんがね」 レイは小さな声でこう口にする。 「あきらめろ。でなけれな……あれと一緒に入学するんだな」 自分から、ラウ達に連絡をしてやろうか? とカナードは問いかけてきた。 「そうですね。それがいいかもしれない」 キラのことはシンに任せておけばいいだろう。二人から離れるのは少し寂しいが、それが一番いいように思えるレイだった。 そのころ、ラウは予想外の人間との再会を果たしていた。 「……お久しぶりですね、カガリ・ユラ・アスハ」 デッキに現れた少女に向かってラウはこう言って手を差し出す。 「確かに。お久しぶりです、ラウ・ル・クルーゼ」 だが、彼女はその手を取ろうとはしない。それは、きっと自分たちの存在を快く思っていないからだろう。ラウは仕方がなく手を下ろす。 「気を悪くしないでいただけるか? ちょっとうまく手が動かせないものでな」 そんな彼の表情に気が付いたのだろう。カガリは苦笑とともにこう言ってくる。それがどういうことなのか、とラウは彼女とともに降り立った相手に視線で問いかけた。 「逃げ出すときにな。骨にひびを入れてしまったようなんだよ。よかったら、診察を受けさせてくれないか?」 流石に、逃げ回っている最中にはその余裕がなかったから……と彼は言い返してくる。 「一応、固定をしてはあるが……な」 それ以上のことはできない、と続けられて、ラウは頷いてみせた。 「誰か。アスハ嬢を医務室に。他のものは通常勤務に戻れ」 そのまま、ラウは彼に視線を戻す。 「お前には付き合って貰うぞ。話を聞かせて貰わなければならないからな」 この言葉に、彼は頷いてみせる。 「わかってるって。あれこれ厄介な話もあるし……ウズミ様達の一件もあるからな」 こちらとしても、じっくりと相談をしたいことがあるから……と彼は続けた。 「そうだな。私の方にも話したいことがある。キラのことも含めて」 だから、取りあえずはゆっくりと話ができる場所に移動しようか、とラウは口にする。 「こちらだ」 そのまま、彼は移動を開始した。 |