「……お仕事?」
 何やら連絡を受けて席を離れていたラクスに、キラはこう問いかけた。
「いいえ、違いますわ。シェフからでしたの」
 みなに夕食を食べていって欲しいのだが、都合はどうかという話だった……とラクスは微笑み返してくる。
「私が友達と一緒にいることが、よほど嬉しいようですわ」
 確かに、みなのように何の思惑もなく自分と付き合ってくれる人々は貴重だから……とラクスは付け加えた。
「……どうしよう……」
 それに、キラは首をかしげながらシンとレイを見つめる。
「カナードさんに連絡してみる?」
 そんなキラにシンがこう言葉を返していた。
「……そうだな。俺たちはそれでも構わないが……みんなはどうなんだ?」
 言葉とともにレイは周囲を見回している。どうやら、彼は何かがあったのだと察しているようだ。
 シンとレイの反応の違いは、どこまで知らされているかの違いだろう。
 同時に、それは周囲が決めた彼等の立場の違いだと言うことではないか。
 ラクスはそう判断をする。
「……流石に、そこまでは……」
 苦笑とともにルナマリアがこう言ってきた。
「そうですね。一応、帰るって言ってきましたし……ものすごく、心ひかれるんですけど」
 それにメイリンが頷いてみせる。こんな風に、きちんと自分の家族のことが考えられるから自分は彼女たちが好きなのだ。
「俺もものすごく心ひかれるんですけど……流石に昨日の今日でそこまで厚かましくなれません」
「これが、キラさん達からのお誘いだったら、遠慮しないんですけどね」
 シンやレイとの親しさを考えれば、そのくらいは大丈夫だろうと思えるから……と男性陣二人も頷いてみせる。それもまたラクスにとっては好ましい反応だった。
 彼等にとってはクラインの名も歌姫としての自分の立場も、さほど重いものではないのだろう。
 それよりも友人としてのポジションの方が重要。
 そう考えられる彼等を友人にしたシンとレイは、やはり人間として魅力的なのではないか。それこそ、キラの側にいて当然のように……とラクスは思う。
「残念ですわね。それでは、みなさまとはまたの機会に。キラ達は是非とも一緒に夕食をとってくださいね。何でしたら、カナード様もお呼びしてくださっても構いませんわ」
 むしろ、その方が都合がいい。
 ラクスは心の中でそう付け加えた。
「そうだね……でもカナード兄さん、来るかな?」
 キラが小首をかしげながらこう呟く。
「聞いてみますよ」
 だから、キラはみんなとここで話の続きをしていてくれ……とレイは口にしながら立ち上がる。その方がヨウランとヴィーノが喜ぶから、とも。
「なんだよ、それ」
 当然のように異論があがる。
「本当のことだろう?」
 それに、レイが即座に言い返したときだ。
「……何?」
 周囲に響き渡った音に、キラが表情を強ばらせる。それに気付いた瞬間、シンがしっかりとその体を抱きしめていた。
「誰かが侵入してきたらしいな」
 レイがため息とともにこう口にする。
「ラクス様?」
「皆さん、こちらへ。本当に困った方が多くていやですわね」
 ここには何もないのに……と苦笑を浮かべながらラクスは立ち上がった。
「中の見学でしたら、断ってさえいただければ許可をさせて頂きますのに」
 そういいながら歩き出す。途中で、キラの体をシンから受け取った。
「シン、レイ……それにヨウランたちも」
 そのまま、何かを確認して歩き出した男性陣の様子に、キラはますます不安そうな表情を作る。
「大丈夫。見てくるだけだから」
 そうすれば、シンが柔らかな笑みを浮かべた。
「危険なことはしないって。万が一のことがあってもカナードさん達にしごかれているから、逃げられるしさ」
「カナード兄さんには連絡をしたから、何も心配しないでください」
 それまでなら、何とでもなる……とレイも頷いてみせる。
「俺たちは、足手まといにならないようにしますから」
 さらにヨウランまでもがこう言ってきた。
「大丈夫です。逃げ足だけは自信があります」
 そういう問題でもないような気がする。しかし、この状況ではそれが一番重要なのだろう。
「無理、しないでね?」
 ラクスの腕の中から、キラがこう告げる。
「わかっています」
 そんなキラにシンは爽やかな微笑みを向けた。

 レイ達が連れてきたのは、アスランだった。それはある意味、予想していたことではある。
 しかし、こんな結末が待っているとは思っても見なかった。
「……その人、誰?」
 アスランの顔を見た瞬間、キラはこう口にする。
 この言葉に、アスランが凍り付いていた。
 彼のその様子に、丁度いいおしおきだと考えてしまう自分は性格が悪いのだろうか。ラクスはそう悩んでしまった。